花木蘭(2)
夜は黄河の岸辺に野宿した。両親が自分を呼んでいるのかと目を覚ますと、それは両親の声ではなく、黄河が雷の如くごうごうと流れる音だった。ムーランは空の星を仰ぎながら、
「この世に戦争がなければどんないいか。でも、これからは勇気を奮い起こして国のために力を尽くし、必ず敵を滅ぼさなければ」
と私情を打ち消した。こうしてさまざまな思いを抱きながら眠りに落ちていった。
翌日黄河を渡り、何日もかかって辺境へたどり着いた。沿道は家族で着の身着のまま南方へ避難する人たちで一杯だった。黒山頭に近づくにつれ時折敵の馬のいななきが聞こえ、その度に敵を倒す決意を新たにした。ムーランは山あり谷ありの長旅で疲れてはいたが、辺境の兵営に到着すると早速陣中のテントを尋ね、この地を統括する李元帥に謁見した。ムーランは父宛のの召集令状を差し出して挨拶したが、李元帥はてっきり父親に代わる息子だと思い、快く受け入れてくれた。
翌日には武芸の試合で隊長を選ぶことになった。ムーランは弓の名手だったので、三回連続矢が的の中心に当たると皆盛んに喝采を送った。次は馬上技芸の試合だった。ムーランの相手は司馬という隊長であったが、彼は威丈夫だし槍の技法も熟練していたので、力が弱い自分としては知恵を使って勝つしかないとムーランは考えていた。30回目にムーランは、司馬がぐっと突いてきた槍を払い除けると、すぐにこの槍を掴んで引っ張ったので、司馬は落馬した。ムーランはすばやく馬から下りて、落ちた司馬隊長を助け起こした。司馬隊長は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になったが、ムーランの機智に大いに感服した。三つ目は兵法の試験だ。李元帥はムーランに兵法について質問すると、ムーランがすらすらと答えたので非常に満足した。そして、
「君は本当に知勇兼備の人だ。これから君に数人の新兵を預けるから、訓練を任せよう」
と激励した。
ムーランは兵士たちと苦楽を共にし、祖国のために今何を成すべきかを説き、兵法の訓練にも労を惜しまなかった。兵士たちは皆この年若い隊長を尊敬し、慕うようになっていった。
ある日間諜が来て告げるには、敵軍の大将であるハラハが大軍を率いて攻め寄せて来るということだった。李元帥は即刻全軍に対し敵軍を迎え撃つよう下知を飛ばした。ムーランの隊には陣地を守るよう命令が来た。(つづく)
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