日本語を勉強している人が「日本語の敬語は難しい」とよく言います。中国語にも敬語があります。「您贵姓?」「您高寿?」「打扰您了」「请允许我~」などの表現が中国語の敬語と言っていいでしょう。中国語話者は、この「请」を「(どうぞ)~てください」と訳して使うことが多いようです。したがって、「请进」「请坐」「请喝茶」を日本語で言う場合、「(どうぞ)入ってください」「(どうぞ)座ってください」「(どうぞ)お茶を飲んでください」という表現を使うことがあります。しかし、これらの表現は文法的には正しいのですが、あまりていねいではありません。
「~てください」は指示する時、またはていねいに命令する時に使います。例えば、教師が生徒に対して、あるいは上司が部下に対して使うことができます。生徒が先生に対して、あるいは部下が上司に対して言う時は、「どうぞお入りになってください」「どうぞおかけください」「どうぞお茶を召し上がってください」のように、動詞のていねいな形や尊敬語を使います。
しかし、何を勧めているのかが状況から明らかな場合は、手振りと「どうぞ」で十分です。例えば、掌を上に向けて、入り口、椅子、お茶を示しながら「どうぞ」と言えばいいのです。また、先になにかをするように勧めたり譲ったりする時には、「どうぞお先に」または「お先にどうぞ」と言うことができます。中国語で「请」「您先请」と言うのと同様です。
中国語を日本語に直訳しても通じる場合と通じない場合があります。また、日本語学習者が文法的に正しいと思う日本語を使って話しても、日本語らしくない表現や失礼な表現になることがあります。日本語を上手に話すには、文法だけではなく、日本人の言語習慣も知っておくことが大切だと言えるでしょう。
本田弘之
杏林大学助教授