「中華料理は習慣ですか」
中国を訪問した日本人は、よくこんな質問を受けます。この質問は、おそらく中国語の「中国菜习惯吗? 」という言い方を直訳したものだと思います。しかし、日本人にはこの質問の意味はまったくわかりません。なぜなら、中国語の「习惯」は名詞としても動詞としても使いますが、日本語の「習慣」ということばは名詞であって、動詞ではなく、動詞性の名詞でもないからです。したがって、中国語で動詞として使われている「习惯」を日本語の「習慣」に直訳すると意味がわからなくなってしまうのです。
では中国語の動詞「习惯」にあたる日本語の動詞は何でしょうか。辞書を見ると、日本語では「慣れる」という動詞が挙げられています。したがって、上の質問は「中華料理に慣れますか」ということになります。ところがこの質問にも問題があります。日本語の「~に慣れる」という表現は、「適応するのが困難なことに、時間をかけて適応する」という意味を含んでいます。そこで「中華料理に慣れますか」という質問は「中華料理は食べにくいでしょうが、がまんして食べられますか」という意味を感じさせることがあるのです。ですから、料理について相手の感想を聞く表現としてはあまりふさわしくありません。
料理についての感想を聞く場合は「この料理はお口に合いますか」あるいは、「この料理の味はいかがですか」と聞くのがいいでしょう。また、味について具体的に「辛くありませんか」などのように聞くこともできます。相手が「おいしいですね」と言った時には、「そうですか。お口に合ってよかったです」とこたえるといいでしょう。料理について相手の感想を聞くだけでなく、「これはこの地方の有名な料理です」「これはこの地方の家庭料理です」「この地方の料理は辛いのが特徴です」と一つ一つ説明するといいと思います。料理の特徴を表す言葉として、ほかに「甘い」「苦い」「しょっぱい」「塩辛い」「すっぱい」「あぶらっこい」「さっぱりしている」「香ばしい」「柔らかい」「硬い」「サクサクしている」「パリパリしている」などがあります。また、お客さんに料理を勧める時は、「(こちらも)とうぞ召し上がってみてください」「(もう)一ついかがですか」「お取りしましょうか」などの表現を使うことができます。
ちなみに、日本でも中華料理は日常的に食べますが、日本の中華料理は「日本式中華料理」が多いです。そこで「日本の餃子と中国の餃子は同じですか」とか、「本田さんは、日本でどんな中華料理を召し上がりますか」といった質問をしてみると、きっとおもしろい発見があると思います。
本田弘之
杏林大学助教授
料理や酒の勧め方は、中国と日本では違います。一般的に日本人は出された料理を残さないことが相手への礼儀だと思っています。一方、中国では食べきれないほどの料理を出してもてなすことがいいとされているようです。したがって、招待された日本人はお腹がいっぱいになっても料理を残さないように一生懸命食べますが、招待した中国人は料理が足りないのは失礼だと思ってさらに料理を追加します。結局お互い苦しい思いをします。
また、日本では「乾杯」は必ずしもグラスに入っているお酒を一気に飲むわけではありません。形式だけの乾杯が多いです。そして、乾杯するのは普通、食事の最初だけです。
中国の食文化と酒文化に慣れていない日本人は、中国人の温かいもてなし方に困惑することがあります。でも、ほとんどの日本人は中国の料理が大好きなはずです。お互いの習慣を尊重しながら、食文化と酒文化の交流を楽しみましょう。