朝鮮語や日本語において、「自分」や「相手」などの呼び方は、ほかの言語と対照した場合、かなり特徴的なことがあります。例えば、「自分」の呼び方は、中国語では、いつでも、相手(聞き手)が誰であろうとも、「我」です。英語も同様、時と相手に関係なく、「I」です。また、「相手」の呼び方は、中国語では、相手(聞き手)が国家主席であろうと、自分の息子であろうと「你」または「您」です。英語ではたとえ女王陛下だろうが、大統領だろうが、自分の息子であろうが「You」です。それに対して、朝鮮語や日本語では、相手との関係や場面・状況などによって、「自分」と「相手」の呼び方を使い分けるという特徴を持っています。まず、「自分」の呼び方についていえば、朝鮮語では、相手の年齢や地位が自分より上の場合には、「저」と言い、逆に相手が同等または下の場合には「나」と言います。このことは、男性であれ、女性であれ、同じです。これに対して、日本語はさらに複雑です。相手との相対的な関係に加えて、公式の場か私的な場かどうかという状況や、性差も、使い分けに関係してくるのです。例えば、「公式の場、相手が目上」から「私的な場、相手が同等・目下」へと変化すると、次のように変わります。男性の場合は、「わたくし」→「わたし」→「ぼく」となり、女性の場合、「わたくし」→「わたし」となります。
次に、相手の呼び方について見てみましょう。朝鮮語で、「你」「You」にあたる言葉は「당신」ですが、これを相手に向かって言うと、失礼な印象を与えたり、不自然になったりします。このことは、日本語の「あなた」についてもあてはまります。「당신(当身)」や「あなた」の代わりに、自分より目上の人に対しては、「総理」「先生」「社長」「部長」などのように、その職業や肩書で呼ぶことが多いのです。朝鮮語では、職業や肩書のあとに、日本語の「様」に相当する「님(任)」を付けるのが一般的で、丁寧な感じがします。それに対して、日本語では「総理」「首相」「先生」のあとには何も付けません。また、「社長」「部長」「課長」のあとに「様」や「さん」を付けると、ほかの会社の人を指すことになります。ちなみに、日本語の「さん」はもともと「様」がなまったものですが、「さん」より「様」のほうが敬意が感じられて、丁寧です。また、家族や親戚の場合は、「おじいさん」「おばあさん」「お父さん」「お母さん」「おじさん」「お兄さん」「할아버지」「할머니」「아버지」「어머니」などのように、自分の立場から見た相手との関係で呼びます。一方、目下の人に対してはどうでしょうか。朝鮮語ではフルネ-ム、あるいは日本語の「~ちゃん」にあたる「아」を付けて呼びます。日本語では通常、姓の後ろに「さん」や「君」(主に男性に対して)などを付けて呼びます。家族や親戚、または親しい友人などの場合には、名(姓ではない個人名)のあとに「ちゃん」などを付けたり、そのまま呼び捨てにしたりします。
自分と相手の呼び方が、朝鮮語と日本語とでは、いつも同じパタ-ンというわけではありませんが、類似した点が多いというのは興味深いところです。
泉文明
龍谷大学国際文化学部助教授