五粒のエンド豆
エンド豆のさやの中に、五粒(ごつぶ)の豆が並んでいました。
さやも緑色(みどりいろ)、五粒の豆も緑色、それで五粒のエンド豆は、
「きっと世界中が、みんな緑色をしているんだ。」と、思っていました。
やがて、エンドウ豆のさやは黄色になりました。
五粒の豆の、揃って黄色になりました。
そこで、みんなは言いました。
「世界中が、黄色くなった。」
それからみんなで、こんなお話を始めました。
「もうすぐ、さやが弾けるよ。そうしたら、僕たちは外へ飛び出すんだ。」
「外に出たら、どうするの?」
「だれかが、きっと待っているんだ。」
すると、そのときです。
忽然、みんなの入っているさやを引っ張った者がありました。
小さな男の子の手のひらです。
「あ、さやが弾ける。」
五粒のエンドウ豆が叫びました。
パチン!コロコロコロ。
五粒のエンドウ豆は、揃って外に転がり出ました。
「うわっ、まぶしい!」
五粒のエンドウ豆は、始めて見た空と、お日さまの光にびっくりです。
ところが、びっくりしたのはそれだけではありません。
男の子はポケットから豆鉄砲を取り出すと、一番目のエンドウ豆を豆鉄砲に詰め込みました。
そして、ズドン!
一番目のエンドウ豆は叫びました。
「ぼくは行くよ。もっと広い世界に。」
二番目のエンドウ豆も、豆鉄砲に詰め込まれました。
ズドン!
「ぼくは行くよ。お日さまのところへ。」
三番目と四番目のエンドウ豆は、コロコロと逃げ出しました。
「ぼくたちは、転がって行くんだ。まだ眠いから。」
でも、ズドン!ズドン!
やっぱり、豆鉄砲に入れられて撃たれてしまいました。
いよいよ、一番おしまいの五番目のエンドウ豆の晩です。
「さようなら。」
五番目のエンド豆は空を飛んで行きました。
そして、小さな屋根裏部屋の窓の下の、ほんの少し、柔らかな土のたまっているところに落ちたのです。
さて、その小さな屋根裏部屋には、貧しいお母さんと病気の女の子が住んでいました。
女の子はお母さんが仕事に行ってしまうと、一日中、一人でベッドに寝ているのです。
ある日のことです。
お母さんが仕事から帰ってくると、女の子が言いました。
「見て、窓のとことに緑色の物が見えるのよ。あれは、なあに?」
お母さんは窓を開けてみました。
エンドウの葉っぱです。
土の上に落ちたエンドウ豆が、芽を出していたのです。
女の子も、お母さんも喜びました。
さびしがっていた女の子は、ドンドン伸びるエンドウ豆を見ていると、自分も元気になるような気がしました。
そして本当に、一日一日と病気がよくなってきたのです。
「あたし、もう病気が治ったわ。どうもありがとう。エンドウ豆の小さいお花さん。」
五番目のエンドウ豆の花は、すっかり元気になった女の子を見て、うれしそうに風に揺れていました。
でも、ほかのエンドウ豆はどうなったでしょう?
一番目のエンドウ豆も、二番目のエンドウ豆も、三番目のエンドウ豆も、ハトに見付かって食べられてしまいました。
でも、ハトが喜んで食べたので、エンドウ豆も喜んでいました。
ところが、四番目のエンドウ豆は溝に落ちて、こう言っています。
「ぼくは、偉いんだ。溝の水をたくさん飲んで、こんなに大きく膨れてるんだから。」