西関外(せいかんがい)の城の根元に靠(よ)る地面はもとからの官有地で、まんなかに一つ歪(ゆが)んだ斜(はす)かけの細道がある。これは近道を貪る人が靴の底で踏み固めたものであるが、自然の区切りとなり、道を境に左は死刑人と行倒(ゆきだう)れの人を埋(うず)め、右は貧乏人の塚を集め、両方ともそれからそれへと段々に土を盛り上げ、さながら富家(ふけ)の祝いの饅頭を見るようである。
今年の清明節(せいめいせつ)は殊の外寒く、柳がようやく米粒ほどの芽をふき出した。
夜が明けるとまもなく華大媽は右側の新しい墓の前へ来て、四つの皿盛と一碗の飯を並べ、しばらくそこに泣いていたが、やがて銀紙を焚いてしまうと地べたに坐り込み、何か待つような様子で、待つと言っても自分が説明が出来ないのでぼんやりしていると、そよ風が彼女の遅れ毛を吹き散らし、去年にまさる多くの白髪(しらが)を見せた。
西关外靠着城根的地面,本是一块官地;中间歪歪斜斜一条细路,是贪走便道的人,用鞋底造成的,但却成了自然的界限。路的左边,都埋着死刑和瘐毙的人,右边是穷人的丛冢。两面都已埋到层层叠叠,宛然阔人家里祝寿时的馒头。
这一年的清明,分外寒冷;杨柳才吐出半粒米大的新芽。天明未久,华大妈已在右边的一坐新坟前面,排出四碟菜,一碗饭,哭了一场。化过纸,呆呆的坐在地上;仿佛等候什么似的,但自己也说不出等候什么。微风起来,吹动他短发,确乎比去年白得多了。
小路(こみち)の上にまた一人、女が来た。これも半白(はんぱく)の頭で襤褸(ぼろ)の著物の下に襤褸の裙(はかま)をつけ、壊れかかった朱塗(しゅぬり)の丸籠を提げて、外へ銀紙のお宝を吊し、とぼとぼと力なく歩いて来たが、ふと華大媽が坐っているのを見て、真蒼(まっさお)な顔の上に羞恥の色を現わし、しばらく躊躇していたが、思い切って道の左の墓の前へ行った。
その墓と小栓の墓は小路(こみち)を隔てて一文字(いちもんじ)に並んでいた。華大媽は見ていると、老女は四皿のお菜(さい)と一碗の飯を並べ、立ちながらしばらく泣いて銀紙を焚いた。華大媽は「あの墓もあの人の息子だろう」と気の毒に思っていると、老女はあたりを見廻し、たちまち手脚を顫わし、よろよろと幾歩か退(しりぞ)いて眼をって(おそ)れた。その様子が傷心のあまり今にも発狂しそうなので、華大媽は見かねて身を起し、小路(こみち)を跨いで老女にささやいた。
「老(ラオナイナイ)、そんなに心を痛めないでわたしと一緒にお帰りなさい」
老女はうなずいたが、眼はやッぱり上ずっていた。そうしてぶつぶつ何か言った。
「あれ御覧なさい。これはどういうわけでしょうかね」
小路上又来了一个女人,也是半白头发,褴褛的衣裙;提一个破旧的朱漆圆篮,外挂一串纸锭,三步一歇的走。忽然见华大妈坐在地上看她,便有些踌躇,惨白的脸上,现出些羞愧的颜色;但终于硬着头皮,走到左边的一坐坟前,放下了篮子。
那坟与小栓的坟,一字儿排着,中间只隔一条小路。华大妈看他排好四碟菜,一碗饭,立着哭了一通,化过纸锭;心里暗暗地想,“这坟里的也是儿子了。”那老女人徘徊观望了一回,忽然手脚有些发抖,跄跄踉踉退下几步,瞪着眼只是发怔。
华大妈见这样子,生怕他伤心到快要发狂了;便忍不住立起身,跨过小路,低声对他说,“你这位老奶奶不要伤心了,--我们还是回去罢。”
那人点一点头,眼睛仍然向上瞪着;也低声吃吃的说道,“你看,--看这是什么呢?”
華大媽は老女のゆびさした方に眼を向けて前の墓を見ると、墓の草はまだ生え揃わないで黄いろい土がところ禿げしてはなはだ醜いものであるが、もう一度、上の方を見ると思わず喫驚(びっくり)した。――紅白の花がハッキリと輪形(わがた)になって墓の上の丸い頂きをかこんでいる。
二人とも、もういい年配で眼はちらついているが、この紅白の花だけはかえってなかなかハッキリ見えた。花はそんなにも多くもなくまた活気もないが、丸々と一つの輪をなして、いかにも綺麗にキチンとしている。華大媽は彼女の倅の墓と他人の墓をせわしなく見較べて、倅の方には青白い小花がポツポツ咲いていたので、心の中では何か物足りなく感じたが、そのわけを突き止めたくはなかった。すると老女は二足三足、前へ進んで仔細に眼をとおして独言(ひとりごと)を言った。
「これは根が無いから、ここで咲いたものではありません――こんなところへ誰がきましょうか? 子供は遊びに来ることが出来ません。親戚も本家も来るはずはありません――これはまた、何としたことでしょうか」
老女はしばらく考えていたが、たちまち涙を流して大声上げて言った。
华大妈跟了他指头看去,眼光便到了前面的坟,这坟上草根还没有全合,露出一块一块的黄土,煞是难看。再往上仔细看时,却不觉也吃一惊;--分明有一圈红白的花,围着那尖圆的坟顶。
他们的眼睛都已老花多年了,但望这红白的花,却还能明白看见。花也不很多,圆圆的排成一个圈,不很精神,倒也整齐。华大妈忙看他儿子和别人的坟,却只有不怕冷的几点青白小花,零星开着;便觉得心里忽然感到一种不足和空虚,不愿意根究。那老女人又走近几步,细看了一遍,自言自语的说,“这没有根,不像自己开的。--这地方有谁来呢?孩子不会来玩;--亲戚本家早不来了。--这是怎么一回事呢?”他想了又想,忽又流下泪来,大声说道:
「瑜(ゆ)ちゃん、あいつ等はお前に皆(みな)罪をなすりつけました。お前はさぞ残念だろう。わたしは悲しくて悲しくて堪りません。きょうこそここで霊験をわたしに見せてくれたんだね」
老女はあたりを見廻すと、一羽の鴉(からす)が枯木(かれぎ)の枝に止まっていた。そこでまた喋り始めた。
「わたしは承知しております。――瑜ちゃんや、可憐(かわい)そうにお前はあいつ等の陥穽(かんせい)に掛ったのだ。天道様(てんとうさま)が御承知です、あいつ等にもいずれきっと報いが来ます。お前は静かに冥(ねむ)るがいい。――お前は果(はた)して、しんじつ果(はた)してここにいるならば、わたしの今の話を聴取ることが出来るだろう――今ちょっとあの鴉をお前の墓の上へ飛ばせて御覧」
そよ風はもう歇(や)んだ。枯草(かれくさ)はついついと立っている。銅線のようなものもある。一本が顫え声を出すと、空気の中に顫えて行ってだんだん細くなる。細くなって消え失せると、あたりが死んだように静かになる。二人は枯草(かれくさ)の中に立って仰向いて鴉を見ると、鴉は切立(きった)ての樹の枝に頭を縮めて鉄の鋳物(いもの)のように立っている。
“瑜儿,他们都冤枉了你,你还是忘不了,伤心不过,今天特意显点灵,要我知道么?”他四面一看,只见一只乌鸦,站在一株没有叶的树上,便接着说,“我知道了。--瑜儿,可怜他们坑了你,他们将来总有报应,天都知道;你闭了眼睛就是了。--你如果真在这里,听到我的话,--便教这乌鸦飞上你的坟顶,给我看罢。”
微风早经停息了;枯草支支直立,有如铜丝。一丝发抖的声音,在空气中愈颤愈细,细到没有,周围便都是死一般静。两人站在枯草丛里,仰面看那乌鸦;那乌鸦也在笔直的树枝间,缩着头,铁铸一般站着。
だいぶ時間がたった。お墓参りの人がだんだん増して来た。老人も子供も墳(つか)の間(あいだ)に出没した。
華大媽は何か知らん、重荷を卸したようになって歩き出そうとした。そうして老女に勧めて
「わたしどもはもう帰りましょうよ」
老女は溜息|吐(つ)いて不承々々(ふしょうぶしょう)に供物(くもつ)を片づけ、しばらくためらっていたが、遂にぶらぶら歩き出した。
「これはまた、何としたことでしょうか」
口の中でつぶやいた。二人は歩いて二三十歩も行かぬうちにたちまち後ろの方で
「かあ」
と一声(いっせい)叫んだ。
二人はぞっとして振返って見ると、鴉は二つの翅(はね)をひろげ、ちょっと身を落して、すぐにまた、遠方の空に向って箭(や)のように飛び去った。
许多的工夫过去了;上坟的人渐渐增多,几个老的小的,在土坟间出没。
华大妈不知怎的,似乎卸下了一挑重担,便想到要走;一面劝着说,“我们还是回去罢。”
那老女人叹一口气,无精打采的收起饭菜;又迟疑了一<