孔乙己は立飲みの方でありながら長衫(ながぎ)を著た唯一の人であった。彼は身の長けがはなはだ高く、顔色が青白く、皺の間にいつも傷痕が交っていて胡麻塩鬚が蓬々(ぼうぼう)と生えていた。著物は汚れ腐って、ツギハギもせず洗濯もせず、十何年も一つものでおっとおしているようだ。彼の言葉は全部が漢文で、口から出るのは「之乎者也(ツーフーツエイエ)」ばかりだから、人が聞けば解るような解らぬような変なもので、その姓氏が孔というのみで名前はよく知られなかったが、ある人が紅紙の上に「上大人(じょうたいじん)孔乙己」と書いてから、これもまた解るような解らぬようなあいまいの中に彼のために一つの確たる仇名が出来て、孔乙己と呼ばれるようになった。
孔乙己が店に来ると、そこにいる飲手は皆笑い出した。
「孔乙己、お前の顔にまた一つ傷が殖えたね」
とその中の一人が言った。孔は答えず九文の大銭を櫃台(デスク)の上に並べ
「酒を二合燗(つ)けてくれ。それから豆を一皿」
「馬鹿に景気がいいぜ。これやテッキリ盗んで来たに違いない」
とわざと大声出して前の一人が言うと、孔乙己は眼玉を剥き出し
「汝はなんすれぞ斯くの如く空(くう)に憑(よ)って人の清白を汚す」
「何、清白だと? 乃公(おれ)はお前が何(か)家の書物を盗んで吊し打ちになったのをこないだ見たばかりだ」
孔は顔を真赤にして、額の上に青筋を立て
「窃書(せっしょ)は盗みの数に入(い)らない。窃書は読書人の為す事で盗みの数に入るべきことではない」
そうして後に続く言葉はとても変梃なもので、「君子固より窮す」とか「者ならん乎(か)」の類だから衆(みな)の笑いを引起し店中俄(にわか)に景気づいた。
译文:
孔乙己是站着喝酒而穿长衫的唯一的人。他身材很高大;青白脸色,皱纹间时常夹些伤痕;一部乱蓬蓬的花白的胡子。穿的虽然是长衫,可是又脏又破,似乎十多年没有补,也没有洗。他对人说话,总是满口之乎者也,教人半懂不懂的。因为他姓孔,别人便从描红纸上的“上大人孔乙己”这半懂不懂的话里,替他取下一个绰号,叫作孔乙己。
孔乙己一到店,所有喝酒的人便都看着他笑,有的叫道,“孔乙己,你脸上又添上新伤疤了!”他不回答,对柜里说,“温两碗酒,要一碟茴香豆。”便排出九文大钱。他们又故意的高声嚷道,“你一定又偷了人家的东西了!”孔乙己睁大眼睛说,“你怎么这样凭空污人清白……”“什么清白?我前天亲眼见你偷了何家的书,吊着打。”孔乙己便涨红了脸,额上的青筋条条绽出,争辩道,“窃书不能算偷……窃书!……读书人的事,能算偷么?”接连便是难懂的话,什么“君子固穷”,什么“者乎”之类,引得众人都哄笑起来:店内外充满了快活的空气。