私が指導している留学生の作文を読んでいると、名前を見なくても「中国語話者だな」とわかることがあります。特定の語彙を使いすぎたり、使い方が中国語(漢語)風だったりするので、それが「不自然な日本語」に感じられてしまうのです。その典型的な例をいくつか紹介したいと思います。
1.「まじめな」「感心する」の使い方
例1:教師のまじめな仕事ぶりに感心しました。
例2:本田先生のまじめな指導のもとで、私の発音はよくなった。
「まじめ」は、目上の人が目下の人に対して「まじめでいい青年だ」と評価したり、「まじめに勉強しなさい」と注意したりする時に使います。例1、2のように先生の授業の様子や指導に対して使うのは適当ではありません。例1、2の場合は「熱心な」を使うといいでしょう。ほかには「真剣な」「真摯な」「ひたむきな」「情熱的な」などの言葉を場面に応じて使います。ちなみに「まじめ」という言葉のイメージは必ずしもいいわけではありません。例えば、「バカまじめ」「クソまじめ」「きまじめ」といった言葉がありますが、いずれも「まじめすぎてよくない」ことを表しています。
「感心する」も、一般的に目上の人が目下の人を評価する時に使います。したがって、目上の人に対して「感心する」を使うのはふさわしくありません。「感銘を受ける」「感激する」「感動する」などを使うといいでしょう。また、自分が教えてもらったような場合は「感謝する」を使うことが多いと思います。
2.「よく」の使い方
例3:新しい知識をいろいろ勉強したので、これからよく教えることができる。
例4:研修会に参加してよく勉強になりました。
「よく」という言葉には(1)うまく、上手に、(2)回数が多い、頻度が高い、という二つの意味があります。しかし「よく~する」「よく~(に)なる」という文型には、(2)の意味しかありません。したがって「うまく~する」という意味で使っている例3の文は誤りです。また、例4は、「よく」を使って「程度」を表現しようとしているので不自然な文になっています。
例3の場合、「これからうまく/もっと上手に教えることができる」、例4の場合、「研修会に参加してとても/たいへん勉強になりました」などの言い方がいいでしょう。
3.「珍しいチャンス」という使い方
例5:今度の研修会のような珍しいチャンス(機会)を生かして、一生懸命勉強したいです。
中国語の「珍」には「貴重な」「価値が高い」という意味がありますが、日本語の「珍しい」は「数が少ない」という意味です。もちろん「数が少ないから、価値がある」という場合がありますが、必ずしもそうとは限りません。また、例えば、晩秋にチョウが飛んでいるのを見て、「珍しいですね」という場合は、「不思議だ」「奇妙だ」というニュアンスを含みます。したがって例5では、「チャンスが少ない」という意味を表すと同時に、そのようなチャンスがあることが「不思議だ、奇妙だ」というニュアンスも含んでしまいます。この場合は「貴重だ」を使います。これは、数の多少に関係なく、たいへん価値があること表します。したがって「貴重な水資源を大切に」という表現は適切ですが、「珍しい水資源を大切に」という言い方は適切ではありません。例5の場合も「貴重なチャンス」「得がたいチャンス」「めったにないチャンス」と言うべきでしょう。
これらの例は、中国出身の日本語学習者(母語が漢語、朝鮮語、モンゴル語のいずれであっても)によく見られます。作文指導の参考にしてください。
本田弘之
杏林大学助教授
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