漢字は中国から伝えられたが、その発音を仮名によって示したのが字音(じおん)(単に音(おん)ともいう)である。字音には、伝来した時代や中国語の方言上の差異によって、呉音(ごおん)・漢音(かんおん)・唐音(とうおん)(宋音そうおん・唐宋音とうそうおんともいう)の三種がある。他に、我が国で生じた慣用音(かんようおん)がある。 |
呉音 |
奈良時代以前の5、6世紀に、当時文化が栄え我が国とも交渉のあった揚子江 (ようすこう)下流の呉(江南こうなん)の地方の発音が伝えられた。これが呉音である。現在、経文(きょうもん)の読誦(どくじゅ)など仏教で多く用いられ、また、日常語の中にも残っている。 |
(呉音・漢音の例)
有…呉ウ、有無(ウム)。漢ユウ、有益(ユウエキ)
回…呉エ、回向(エコウ)。漢カイ、回転 (カイテン)
功…呉ク、功徳(クドク)。漢コウ、功利(コウリ)
内…呉ナイ、内乱(ナイラン)。漢ダイ、内裏(ダイリ)
人…呉ニン、人間(ニンゲン)。漢ジン、人生(ジンセイ)
平…呉ビョウ、平等(ビョウドウ)。漢ヘイ、平安(ヘイアン) |
漢音 |
中国との国交が確立し、遣隋使 (けんずいし)・遣唐使(けんとうし)とともに多くの留学生が送られるようになると、彼らは都の長安(ちょうあん)で使われていた北方音を学んできた。こうして伝えられた字音が漢音である。当時の中国の標準音であり、我が国でも漢音が正規の字音とされ、以来、漢籍(中国の書物)の読みは多く漢音による。 |
唐音 |
鎌倉時代のころから、禅僧や商人によって伝えられた宋 (そう)・明(みん)・清(しん)時代の中国音を一括して唐音という。唐音の中には現代中国音にかなり似た発音のものもある。 |
(唐音の例)
行宮(アングウ)、椅子(イス)、看経(カンキン)、提灯(チョウチン)、納戸(ナンド)、普請(フシン) |
慣用音 |
我が国でなまったり誤ったりして生じ、通用されるに至った字音をいう。 |
(慣用音の例)
喫…慣キツ(呉キャク、漢ケキ)
伐…慣バツ(呉ボチ、漢ハツ)
輸…慣ユ(呉・漢シュ)
立…慣リツ(呉・漢リュウ)
攪…慣カク(呉キョウ、漢コウ)
耗…慣モウ(呉・漢コウ) |
以上の字音に対して、字訓 (じくん)(単に訓(くん)ともいう)とは、春(シュン)を「はる」、草(ソウ)を「くさ」、舟(シュウ)を「ふね」と読むように、漢字の意味を日本の国語に翻訳した訳語を指す。なお、菊(キク)・茶(チャ)・象(ゾウ)などは中国音がそのまま日本語化したものであり、字訓とは言えない。 |