手紙では、「拝啓 新緑の候…」「拝啓 梅のつぼみも膨らみはじめました。…」など、頭語(とうご)に続いて時候の挨拶(あいさつ)を書くことが多い。
ここには、その時候の挨拶例を月ごとにまとめて掲げた。
各月と四季の関係については、立春が正月一日ごろに相当した旧暦(陰暦。厳密には太陰太陽暦)では、一・二・三月を春、四・五・六月を夏、七・八・九月を秋、十・十一・十二月を冬とするのが一般的であった。(一月を初春・孟春(もうしゅん)、二月を仲春(ちゅうしゅん)、三月を晩春・季春(きしゅん)という。以下、夏・秋・冬もこれに準じる。) しかし、この旧暦は、我々が今用いている太陽暦とは35日ほどのずれがある。そのため、現在の四季の区分では、一か月ずらして二・三・四月を春とするもの(これに準じて夏・秋・冬が続く)、実際の季節感を重視し、二か月ずらして三・四・五月を春とするもの(これに準じて夏・秋・冬が続く)、また、古来の二十四節気(にじゅうしせっき)(二十四気・二十四節ともいう)に基づいて決めるものなどがある。
二十四節気によると、
春 |
立春( りっしゅん。2月4日ごろ)から立夏(りっか。5月6日ごろ)の前日まで。 |
夏 |
立夏(5月6日ごろ)から立秋( りっしゅう。8月8日ごろ)の前日まで。 |
秋 |
立秋(8月8日ごろ)から立冬( りっとう。11月8日ごろ)の前日まで。 |
冬 |
立冬(11月8日ごろ)から立春(2月4日ごろ)の前日まで。 |
ということになる。もっとも、二十四節気も中国から伝わったものであり、我が国の季節感を踏まえたものではない。また、春夏秋冬の四季や各月の季節感は、日本国内においても地域によってかなり異なる。
なお、年賀状に用いる「初春」「頌春 (しょうしゅん)」「迎春」などは旧暦による名称である |
一月 睦月 (むつき)
新春の候 厳寒の候 酷寒のみぎり(砌)
寒気ことのほか厳しい毎日 寒風吹きすさぶ候
年も改まりましたが、例年にない寒さが続いております。
なお、年賀状は七日ごろまでに出す。寒中見舞いは、寒(かん)の入り(1月6日ごろ)から立春(2月4日ごろ)の前日までに出す。
二月 如月 (きさらぎ)
向春の候 春寒の候
余寒なお骨身にこたえる日が続いております。(「余寒」は、立春後の寒さ。)
春光は日ごとにまばゆさを増してまいりました。
梅のつぼみも膨らみはじめました。
三月 弥生 (やよい)
早春の候 啓蟄(けいちつ)の候(「啓蟄」は、冬ごもりしていた虫が地中からはい出ること。) 春暖の候
日一日と暖かさが増してまいりました。
暑さ寒さも彼岸(ひがん)までと申しますが、すっかり春めいてまいりました。(「春の彼岸」は、春分(しゅんぶん)の日(3月21日ごろ)を中日(ちゅうにち)とする前後七日間。)
四月 卯月(うづき)
春暖の候 陽春のみぎり(砌) 桜花爛漫(らんまん)の候
しめやかに降る春雨に心も落ち着く今日このごろ
花の便りも聞かれるころとなりました。
春色鮮やかな季節になりました。
春たけなわ、心も浮き立つ日々が続いております。
五月 皐月(さつき)
初夏の候 新緑の候 薫風(くんぷう)のみぎり(砌)
青葉をわたる風も快く感じられる今日このごろ
八十八夜も過ぎ、夏の到来が間近に感じられます。(「八十八夜」は、立春(2月4日ごろ)から八十八日めの日。5月2日ごろ。)
すがすがしい新緑の季節を迎えました。
若葉が目にしみる季節になりました。
五月晴(さつきば)れの空に鯉(こい)のぼりが泳いでおります。
六月 水無月 (みなづき)
向暑の候 入梅の候
雨に煙る紫陽花(あじさい)の風情もひとしおのこのごろ
木々の緑がいちだんと深まってまいりました。
うっとうしい梅雨空(つゆぞら)の毎日です。
野も山も見渡すかぎり夏景色となりました。
七月 文月 (ふみづき)
盛夏の候 酷暑の候 猛暑の候 炎暑のみぎり(砌)
梅雨明けの暑さひとしおの今日このごろ
例年になく厳しい暑さが続いております。
当地は今日、久しぶりによいお湿りに恵まれました。
当地は土用の鰻(うなぎ)も効かぬほどの極暑が続いておりますが、皆様にはいかがおしのぎでいらっしゃいますか。(「土用」は、立秋(8月8日ごろ)前の十八日間。古来、その間の丑(うし)の日に鰻を食べる風習がある。)
なお、暑中見舞いは、小暑(しょうしょ。7月7日ごろ)から立秋(8月8日ごろ)の前日までに出す。残暑見舞いは、立秋から八月末ごろまでに出す。)
八月 葉月 (はづき)
残暑の候 暮夏のみぎり(砌)
残暑ひとしお身にこたえる日が続いております。
暦の上ではもう秋ですが、灼熱(しゃくねつ)の太陽は全く衰えを見せません。
暑さもようやく峠を越したようです。
朝夕は幾分しのぎやすくなりました。
窓近くすだく虫の音に、秋の気配を感じるころとなりました。
九月 長月 (ながつき)
秋涼の候 新涼のみぎり(砌)
さわやかな秋風の立つ今日このごろ
秋色もしだいに濃くなってまいりました。
中秋の名月も間近になりました。
秋の味覚が出回りはじめました。
二百十日は無事過ぎましたが、次々に台風が発生し、その襲来が懸念されます。(「二百十日」は、立春(2月4日ごろ)から二百十日めの、9月1日ごろ。古来、農作物に被害の出る台風襲来の時期とされる。)
十月 神無月 (かんなづき)
秋冷の候 菊薫る候 清秋のみぎり(砌)
灯火親しむべき候
天高く馬肥ゆる候となりました。
街路樹の葉も日ごとに色づいてまいりました。
野も山もすっかり秋景色となりました。
朝夕肌寒さを覚える候となりました。
十一月 霜月 (しもつき)
晩秋の候 向寒のみぎり(砌)
うららかな小春日和(こはるびより)が続いております。
落ち葉の散り敷くころとなりました。
朝夕はひときわ冷え込むようになりました。
十二月 師走 (しわす)
寒冷の候
日一日と寒さの加わる今日このごろ
冬将軍が到来する季節になりました。
木枯らしにひときわ寒さを感じるようになりました。
今年も早、慌ただしい年の瀬となりました。
今年もいよいよ残りわずかになりました。 |