手紙は、ふつう、前文(書き出しの挨拶(あいさつ)<頭語>、時候の挨拶、安否の挨拶(相手方・自分側)、感謝の言葉、おわびの言葉など)・主文(用件)・末文(終わりの挨拶<結語>)・後付け(日付、差出人の署名、受取人の氏名)から成る。
ここには、特に注意を要する用語や言葉遣いの例を掲げた。
(1)
頭語と結語 それぞれの場合に応じて、次のような語が用いられる。
頭語…拝啓・拝呈・拝白、一筆申し上げます
結語…敬具・拝具、かしこ(女性用)、さようなら
頭語…謹啓・粛啓・粛呈、謹んで申し上げます
結語…敬白・敬具・頓首
(とんしゅ)・再拝、かしこ(女性用)・ではこれで失礼いたします
頭語…急啓・急呈・急白、取り急ぎ用件のみ申し上げます
結語…草々・不一
(ふいつ)、かしこ(女性用)・さようなら
頭語…再啓・再呈・追呈、重ねて申し上げます
結語…敬具・敬白・草々、かしこ(女性用)・さようなら
頭語…前略・冠省
(かんしょう)・略啓、前文お許しください・前略ごめんください
結語…草々・不一、かしこ(女性用)・さようなら・ではまた
頭語…拝復・復啓、お手紙拝見(いた)しました
結語…拝答・敬具・敬白・草々、かしこ(女性用)・御
ご(お)返事まで
(2)
時候の挨拶 頭語のあと、一字分あけて(または行を改めて)時候の挨拶を書く。
(3)
安否の挨拶 (相手方・自分側)の例
(ア)個人あての場合
皆々様(御一同様)にはいよいよ御清祥のこととお喜び申し上げます。(なお)私ども一同、おかげさまで無事消光しております故、他事ながら御安心ください。
先生にはますます御健勝にて御活躍の御様子、心からお喜び申し上げます。(なお)当方相変わらず元気に勤務しております。(自分側の安否は省略される場合も多い。)
あなた様にはいかがお過ごしでいらっしゃいますか。
(イ)会社・団体あての場合
貴社ますます御隆盛の段、慶賀の至りに存じます。
貴所いよいよ御繁栄の趣、お喜び申し上げます。
(4)
感謝の言葉の例
毎度格別の御厚情を頂き、厚く御礼申し上げます。
常々過分の御配慮を賜り、誠にありがとう存じます。
日ごろひとかたならぬ御指導御鞭撻(ごしどうごべんたつ)を賜り、謹んで御礼申し上げます。
(5)
おわびの言葉の例
平素御無沙汰(ごぶさた)にうち過ぎ、心よりおわび申し上げます。
いつも何かと御迷惑ばかりお掛けし、なんとも申し訳ございません。
早速御連絡すべきところ、御ご(お)返事が遅れまして誠に申し訳なく存じます。
(補)その他、返信の手紙では「拝復 この度は御懇篤(ごこんとく)な御書面、ありがたく拝見いたしました」「拝復 昨日は御丁寧なお手紙、誠にありがとう存じました」、面識のない人に出す手紙では「謹啓 いまだ御面識を得ませんのに突然お手紙を差し上げます御無礼、御容赦のほどお願い申し上げます。当方、小さな出版社に勤めております鈴木一男と申します」などと、それぞれの場合に応じた表現にする。
(6)
主文(用件) 行を改め、多く「さて」などの書き出しの言葉を用いる。
相手に内容が正確に伝わることが第一であるが、失礼にならないよう用語・文体・表記などにも留意する。
(7)
終わりの挨拶の例
以上、取り急ぎの乱筆恐縮に存じますが、よろしく御判読のほどお願い申し上げます。(乱筆のおわび)
以上、悪文のためお分かりになりにくい点も多いことと存じますが、御容赦のほどお願い申し上げます。(悪文のおわび)
以上、勝手なお願いばかり申し上げてさぞ御迷惑とは存じますが、御寛容のほどお願い申し上げます。(迷惑を掛けたおわび)
なお、今後とも御高配を賜りますよう、切にお願い申し上げます。(今後の愛顧を願う)
なお、引き続き倍旧の御厚情(御協力・お力添え)を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。(上に同じ)
気候不順の折から、ますます御自愛専一のほどお念じ申し上げます。(健康・繁栄を祈る)
時節柄、一層御自愛御発展のほどお祈りいたします。(上に同じ)
末筆ながら、貴社の御隆盛をお祈り申し上げます。(上に同じ)
右、遅ればせながら御報告申し上げます。(要旨をまとめる言葉)
(8)
結語 「(1)頭語と結語」を参照のこと。
(9)
日付 手紙を書いた日、または投函予定日を書く。
ふつう月日だけでもよいが、儀礼的な手紙や重要な手紙では年月日を記載することが多い。
儀礼的な手紙の場合、招待状などに「○年○月吉日」、暑中見舞いに「○年盛夏」のように書くこともある。
(10)
差出人の署名 一般には姓と名を書く。「吉田生」などと書くこともある。
この形は改まった手紙には用いない。敬意を表して「吉田一郎拝」などと書くこともある。
代筆の場合は、氏名の下に「代」「代筆」を添える。妻が夫に代わって書く場合は「内」と添える。
(11)
受取人の氏名に添える敬称
様 最も一般的なもの。目上・同輩・目下の別、男女の別なく用いられる。
(補)受取人が連名になる場合は、次のように書く。
夫婦連名…御主人の氏名・敬称の左側に「御奥様」「御令室様」「令夫人様」「奥方様」などと書く。
親子連名…同様に「御令息様」「御令嬢様」などと書く。
兄弟姉妹の連名…最初の一人だけ氏名・敬称を書き、そのあとに名・敬称だけ並べる。
家族一同の場合…代表として一人の氏名・敬称を書き、その左側に「御一同様」などと書く。
(補)
受取人が二人の場合、敬称はそれぞれに付ける。二人分あわせて大きく「様」と書くのは失礼である。
- 殿
公用文・商業文で用いる。商業文でも一般顧客に対しては多く「様」を用いる。
- 先生
恩師をはじめ、教員・医師・弁護士・議員・画家・書家・師匠などに対して用いる。
(補)「吉田一郎先生様」は敬称が重複するので避けるべきである。
(おんちゅう) (その中にいる人にあてるという意味で)会社・官庁・学校・団体などに対して用いる。「脇付(わきづ)け」と同様、受取先の会社名などの左下に書く。
各位 同文を多数の人にあてる場合、一々の個人名を省略し、「会員各位」などと用いる。
(補)「各位」は「皆様方それぞれ」という意味。「各位様」「各位殿」は敬称が重複するので避けるべきである。
(12)
脇付け 受取人の氏名(様・殿つき)の左下に書き添えて、更に敬意を加える語。最近はあまり使われない。
- 侍史
目上に対して用いる、最も一般的なもの。「侍史」は貴人のそばに仕える書記のことで、直接本人に届けるのを遠慮して、その書記に取り次いでもらうという意味である。同種の語に、「執事」「台下」などがある。
- 机下
相手の机の下に差し出すという意味で、同輩などに対して用いる。同種の語に、「座下」「案下」などがある。
- 函丈
(かんじょう) 師から一丈も離れて座るという意味で、先生(または目上)に対して用いる。
御前 その前に置くという意味で、ふつう女性が用いる。同種の語に、「御前に」「御許(おんもと)」「みもとに」「みまえに」などがある。
(補)封筒の表書きに「親展」(受取人本人に開封してくださいという意味)と書く場合や、弔慰状などでは脇付けは添えない。
(13)
追伸 後付けの最後に、「追って…」「追伸…」「二伸…」などの形で更に書き加えることがある。
本文に書き忘れたこと、本文とは直接関係のない軽い内容を添える。
(「追伸 当地の名産を少々お送りしました。御笑納ください」など)
(14)
封字 封筒の裏側の、封をしたところに書く印を指す。
- 〆
「しめ」と読み、「締め」の意味を表す。最も広く使われる。「締」「封」の漢字を用いることもある。
- 緘
「かん」と読み、「口をとじる」意味を表す。重々しい感じを与える封字で、重要な手紙などに多く用いる。
- 寿
「ことぶき」と読み、祝儀の手紙に用いる。同種の封字に「賀」がある。
- つぼみ
女性が用いる。漢字で「蕾」「莟」と書くこともある。