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日文小说连载之十二国记

作者:贯通日本… 文章来源:贯通论坛 点击数 更新时间:2007-10-4 22:55:14 文章录入:阿汝 责任编辑:阿汝

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#1 作者:星矢 2004-11-22 10:09:00)

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十二国記シリーズ 風の海 迷宮の岸

小野不由美

説明

テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ(例)

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号(例)

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)(例)

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)(例)*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」

〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ(例)アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください http://aozora.gr.jp/accent_separation.html

-------------------------------------------------------    風の海 迷宮の岸(上) 十二国記

   ブロローグ

 雪が降っていた。 重い大きな|雪片《せっぺん》が沈むように降りしきっていた。 天を見あげれば空は白、そこに灰色の薄い影が無数ににじむ。|染《し》みいる速度で視野を横切り、目線で追うといつの間にか白い。 彼は肩に軟着陸したひとひらを見る。|綿毛《わたげ》のような結晶が見えるほど、大きく重い雪だった。次から次へ、肩から|腕《うで》へ、そうして真っ赤になった|掌《てのひら》にとまっては、水の色に|透《す》けて|溶《と》けていく。 雪の白よりも、彼の|吐息《といき》のほうが寒々しかった。子供特有の細い首をめぐらせると、動作のとおりに白く吐息が動きを見せて、それがいっそう目に寒い。 彼がそこに立ってもう一時間が過ぎた。 小さな手もむきだしの|膝《ひざ》も、|熟《う》れたように赤くなってすでに感覚が無い。さすっても抱きこんでも冷たいばかりで、それでいつのまにかぼんやりとただ立っていた。 北の中庭だった。 |狭《せま》い庭の|隅《すみ》には使われてなくなって久しい倉が建っている。|土壁《つちかべ》に入った|亀裂《きれつ》が寒々しい。 三方を|母屋《おもや》と倉に、もう一方を|土塀《どべい》に囲まれていたが、風の無いただ寒いばかりのこの時には、ほとんど恩恵をもたらさなかった。 庭木と呼べるほどの樹木もない。夏が近くなればシャガの花が咲いたが、いまはむきだしの地面が白くまだらに染まっているだけだった。(|強情《ごうじょう》な子やね) 祖母は関西から|嫁《とつ》いできた。いまも故郷のなまりが消えない。(泣くくらいやったら|可愛《かわい》げもあるのに)(お義母《かあ》さん。そんな、きつく言わなくても)(あんたらが甘やかすし、いこじな子になるんやわ)(でも)(近頃の若いもんは子供のきげんを取るしあかん。子供は|厳《きび》しいくらいでちょうどよろし)(でも、お義母さん、|風邪《かぜ》をひいたら)(子供がこれくらいの雪で|風邪《かぜ》なんかひくわけないわ。──ええね、|正直《しょうじき》に|謝《あやま》るまで、おうちの中には入れへんかららね) 彼はただ立ちつくしている。 そもそもは、洗面所の床に水をこぼしてふかなかったのは誰かという、そんな|些細《ささい》な問題だった。 弟は彼だと言い、彼は自分ではない、と言った。 彼にはまったく身に覚えがなかったので、そう正直に言ったまでのことだ。彼は常々祖母から、|嘘《うそ》をつくのはもっともいけないことだとしつけられてきたので、自分が犯人だと嘘をつくことはできなかった。(正直に言うて謝ればすむことでしょう) 祖母が激しく言うので、彼は自分ではないとくりかえすしかなかった。(あんたやなかったら、誰やの) 犯人を知らなかったので、知らないと答えた。そうとしか返答のしようがなかった。(どうしてこんなに強情なんやろね) ずっと言われつづけていることではあるし、彼は幼いなりに自分が強情なのだと|納得《なっとく》していた。「強情」という言葉の意味を正確に知るわけではないが、自分は「強情」な子供で、だから祖母は自分を|嫌《きら》いなのだと、そう納得していた。 涙が出なかったのは|困惑《こんわく》していたからだった。 祖母は謝罪の言葉を求めているが、謝罪すれば祖母がもっとも嫌う嘘をつくことになる。どうしていいかわからなくて、彼はただ途方にくれていた。 彼の目の前には|廊下《ろうか》が横に伸びていた。廊下の大きなガラスの向こうは茶の間の|障子《しょうじ》。半分だけガラスが入ったそこから、茶の間の中で祖母と母とが言い争いをしているのが見えた。 ふたりが|喧嘩《けんか》をするのはせつない。いつも必ず母が負けて、決まって風呂場の|掃除《そうじ》に行く。そこでこっそり母が泣くのを知っていた。 ──お母さん、また、泣くのかなぁ。 そんなことを考えて、ぼんやりと立っている。 少しずつ足が|痺《しび》れてきた。片足に体重をのせると、|膝《ひざ》がきしきし痛んだ。足先は感覚がない。それでも無理に動かしてみると、冷たい|鋭利《えいり》な痛みが走った。膝で|溶《と》けた雪が冷たい水滴になって、|脛《すね》へ流れていくのがわかった。 彼が子供なりに重い|溜《た》め|息《いき》をついたときだった。 ふいに首筋に風が当たった。すかすかするような冷たい風でなく、ひどく暖かい風だった。 彼はあたりを見まわした。誰かが彼をあわれんで、戸を開けてくれたのだろうと思ったからだ。 しかしながら、見まわしてみても、どの窓もぴったり閉ざされたままだった。|廊下《ろうか》ではなく部屋に面したガラスは、さも暖かげにくもっている。 首をかしげて、もういちどあたりを見まわす。暖かな空気はいまも彼のほうに流れてきていた。 彼は倉の脇まで目をやって、それからきょとんと|瞬《まばた》きした。 倉と|土塀《どべい》の間のごくわずかの|隙間《すきま》から、白いものが伸びていた。 それは人の|腕《うで》に見えた。二の腕の上のほうまで素肌をむきだしにした白いふっくりとした腕が、倉のかげからさしだされているのだった。 腕の主の姿は見えない。おそらく倉のかげに|隠《かく》れているのだろうと、彼は思った。 ひどく|不思議《ふしぎ》な気がした。 倉と塀のあいだにはほんのわずかな隙間しかない。せまい隙間に落ちこんだ野球ボールが取れなくて、弟が泣いたのは昨日のことだ。見たところ|大人《おとな》の腕のようだが、いったいどうやってあの隙間に入っているのだろう。 腕は|肘《ひじ》から下を泳がせるようにして動かしていた。それが手招きしているのだと|悟《さと》って、彼は足を|踏《ふ》みだす。|凍《こご》えて|痺《しび》れた|膝《ひざ》が、音がしないのが不思議なほどぎくしゃくした。 |怯《おび》える気になれなかったのは、暖かい空気がその方角から流れてくるのに気づいたからだった。 彼はほんとうに寒かったし、本当にどうしていいかわからなかったので呼ばれるままに歩いた。 雪はすでに地面をおおって、彼の小さな足跡を残すほどになっている。 白かった空は|墨《すみ》をぼかしたように色を変えている。 短い冬の日が|暮《く》れようとしていた。

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#2 作者:星矢 2004-11-22 10:16:00)


一章

   1

 命がどこからくるのか知る者はないし、ましてや人でないものならなおさらだった。 命も意識も、彼女の中に唐突に宿った。 |目覚《めざ》めたとき、彼女は白い枝の下にいて、頭の中にはたったひとつの|言葉《ことば》しかなかった。 ──|泰麒《たいき》 身を起こす間に、その言葉は頭の中いっぱいに満ちて、あふれると同時に彼女はすべての事柄を|把握《はあく》していた。 自分が何者であるのか、なんのために存在するのか、なにがもっとも重要であるのか。 ──泰麒。 それは半身を起こしたいまも、彼女の|脳裏《のうり》からあふれて身内にしたたりつづけていた。 まるでしたたっていく水滴を体の奥深いところで受けとめようとするように、彼女は起こした状態を反らした。顔を仰向け、目を閉じた。涙がこめかみに向けてすべって落ち、まだ濡れているか身の中に|溶《と》け入った。 力の入らない足を動かすと、足の先に|湿《しめ》った土と金色のかけらが|触《ふ》れた。 かけらはつい先ほどまで彼女を抱いていた|殻《から》だった。土が吸った水分は、つい先ほどまで殻の中に満たされていたものだった。彼女はほんの少し前に殻の中から|孵《かえ》ったのだ。彼女を抱いた金の卵は枝を離れて落下し、割れた。 彼女は卵のかけらをしばらく見やって、次いで視線を上げた。目の前には白い枝。|白銀《しろがね》でできたかのような枝は頭上に伸びて、はるか上空で|堅牢《けんろう》な岩盤に吸い込まれている。 枝にはいくつか、金色の果実がこぶのように|実《みの》っていた。それはまだ命を宿さぬ卵なのだと、自分もついさっきまで同じようにしてそこに実っていたのだと、彼女は教えられるわけでもなく思い出していた。 命とは、そのようにして|誕生《たんじょう》するものだ。 ──泰麒。 彼女は|四肢《しし》に力をこめて立ちあがった。また、涙がこぼれた。 涙ははじめて外気に触れた|瞳《ひとみ》を守ろうとする反射に過ぎなかったが、彼女はその熱いほど暖かいものが滑り落ちていく感触を、たったひとの言葉が身内をすべり落ちていく感触だと感じた。 泰麒、泰麒と呼ばわりながら、涙がこぼれる。 まっすぐに立ちあがると髪を枝にすくわれた。彼女は土を|踏《ふ》んだ|四肢《しし》とは別の二本の|腕《うで》で、それをほどいた。

「|孵《かえ》ったようだね」 ふいに声が聞こえて、彼女は音声のしたほうを見た。 あたりはほの暗い|闇《やみ》、頭上の枝ばかりが|燐光《りんこう》を放って白い。 少し目が慣れると、そこが巨大な|洞窟《どうくつ》の中だとわかった。 巨大な──あまりに巨大な半球形の洞窟の、中央に白い枝が|垂《た》れている。実をいえば、彼女をおおいかくすようにして垂れているのは枝ではなく根だった。それは岩盤を貫いて、どれほどあるのかわからないほど高い|天井《てんじょう》の中央から、彼女の立つ足元までびっしりと細かく枝分かれしながら伸びているのだった。 ふむ、と間近で声がした。「よい|女怪《にょかい》だ」 彼女はもう一度声のありかを探した。 今度はたやすく見つかった。彼女の足元の、そう離れていないところに腰の曲がった|老婆《ろうば》が立っていた。 老婆は立ちあがった彼女の、胸のあたりまでしか背丈がない。枯れ枝のような腕を背伸びするように伸ばして、老婆は彼女の濡れて背中にまとわりついた髪をなでた。「女で」 言いながら、ついで|頬《ほお》をなでる。「首は魚」 軽く腕を|叩《たたく》く。「上体は人」 背中にまわされた手が軽く下の背筋を叩いた。「下は|豹《ひょう》。尾は|蜥蜴《とかげ》だね。よく|混《ま》じっている」 上の背筋と下の背筋の、ちょうど間のよく緊張したあたりを老婆は軽く押した。「さ、そんなにお泣きでないよ。──おいで」 おされるままに彼女は歩いた。歩くたびに涙がこぼれて|乾《かわ》いた土にしみを作る。 ゆっくりと長い時間をかけて|洞窟《どうくつ》を横切り、|天井《てんじょう》の岩盤が作る曲線と足元の土が交わるあたりで階段を見つけた。「サンシ、にしよう」 老婆がやっとつぶやいた。「|汕《さん》、|子《し》、だ。おまえは、これから汕子と呼ばれる」 彼女は|黙《だま》って狭く暗い石段を上がりながら、老婆の声を聞いていた。「姓は|白《はく》だ。これは|蓬山《ほうざん》で実った|女怪《にょかい》の定め」 大きく|湾曲《わんきょく》した石段を上っていくと、ふいに光が見えた。「姓をたまわるのは、おまえの使命が重いからだ。それをよく覚えておおき」 彼女はうなずいた。なにが重いのか、言われなくてもわかっていた。 その重みを胸の中に刻みなおすようにしながら|黙々《もくもく》と石段を上ると、ふいに視野が開けた。いつのまにか幅広になっていた石段の、正面にぽっかりと大きく四角の穴が|空《あ》いていた。 彼女は足を止めた。 見上げる角度にあるその穴から、|淡《あわ》い青の抜けるように高い空と、そこに向かって伸びるまばゆいばかりに白い木が見えた。見えるのはそれだけだった。やっと止まった涙がまたあふれた。 老婆が背筋を|叩《たた》いた。「そら、おゆき」 彼女は|駆《か》け出した。生れ落ちたばかりの|脚《あし》で初めて走った。 石段を上りきり、陽光の中に飛び出し、|刺《さ》すような光をこぼしながらまっすぐ木に駆けよった。 彼女は根に実った。長細い根に対して、木は低く大きかった。|苔《こけ》むした岩盤の上、空を背景に伸びやかに枝を這った木の、白い白い枝には金の果実がひとつ実っている。「泰麒」 初めての声が彼女の|喉《のど》を越えた。 彼女を実らせた根と、ちょうど|一対《いっつい》をなす位置にその果実はある。まだ小さく、両手で包めるほどの大きさしかなかった。陽光が乾ききらぬ|鋭敏《えいびん》な肌を刺すのを感じながら、彼女はその実を両手で包んで|頬《ほお》を当てた。 涙が止まらない。「……泰麒」 汕子はこの世に生をうけたのだ。

#3 作者:星矢 2004-11-22 10:16:00)


 世界の中央に|黄海《こうかい》があった。 海といっても水はない。そこで流れてゆくものは時と風ばかり、そのほかには果てのない|砂漠《さばく》と果てのない|樹海《じゅかい》と、あるいは一面の沼地が、あるいは一連の岩山がひろがるばかりの土地である。 その黄海の中央にひときわ高く連なる山々がある。五つの峻峰が複雑に入り組むそこを、|五山《ござん》といった。 中央の高い山を|崇高《すうこう》、周囲四方に連なる山をそれぞれ|蓬山《ほうざん》、|華山《かざん》、|霍山《かくざん》、|恒山《こうざん》と呼ぶ。蓬山は|旧《ふる》くを|泰山《たいざん》といったが、凶事あるたびに改名して、ここ千年ばかりは蓬山と呼び習わしている。 五山は|西王母《せいおうぼ》の山と言い、蓬山は|王夫人《おうふじん》の山だと言う。残る四山の|主《あるじ》は諸説あって定かではない。その|真偽《しんぎ》はともあれ、いずれにしても五山は|女神《にょしん》・|女仙《にょせん》の土地だった。 五山はどれも天を|突《つ》くほど高い山だが、|麓《ふもと》に広がる黄海同様、なにがあるわけでもなかった。緑と岩と水、それだけが複雑怪奇な地形を作りながら連なるばかり、そこに途切れることなく風がただ吹きぬけてゆく。 ただ蓬山の中腹に、|蓬廬宮《ほうろぐう》と呼ばれる小さな宮殿がある。ここが蓬山で──ひいては五山で繰らす者たちの|唯一《ゆいいつ》の|住処《すみか》なのだった。

「……おや、|罌粟《けし》が」 |禎衛《ていえい》はつぶやいて、かがみこんだ。 泉に罌粟の花びらがいくつも浮いているのを見つけたからだ。 禎衛から二歩ほど|後《おく》れて小道を歩いていた|蓉可《ようか》もまた足を止めた。澄んだ水の表面に、赤い花弁の色が美しかった。「|罌粟苑《けしえん》の花でしょうか」 蓉可の問いに、禎衛はうなずいて花びらをすくう。「風に乗って飛んできたのだろう。──今日は妙な風が吹くね」 蓉可もまたうなずいて、頭上を見上げた。 蓬山は奇岩の山だった。特にここ蓬廬宮のある高台は、|苔《こけ》むした奇岩でさながら迷路の様相を|呈《てい》している。 奇岩はその名にふさわしく奇妙にえぐれ、不安定にそびえ、その高さは低いものでも身の丈の三倍あまり、奇岩の間をぬうようにして通る小道は、かろうじて女がふたり肩を並べて歩けるほどしかない。 その小道の途中で足を止めて、禎衛は泉に浮かんだ|罌粟《けし》の花びらを丁寧にすくった。 彼女は|女仙《にょせん》のひとりだった。十八、九の娘に見えるが、女仙の外見を信用してはならない。いかなるいきさつでいつごろ|昇仙《しょうせん》したのか、彼女自身ももはや覚えていない。それど長い間、蓬山にいることだけは確かだった。五十人あまりいる女仙の中でも、禎衛ほど蓬山住まいが長い女仙はいない。 反対に、蓉可はもっとも新参の女仙だった。|歳《とし》は十六、ごく平凡な農家の娘に生まれたが、どういうわけか世俗に|馴染《なじ》めず、十三の歳に昇仙の誓いをたて、|五穀《ごこく》を断って西王母の|廟《びょう》に通いつづけること三年、ついさきごろ満願を|成就《じょうじゅ》し五山へ召し上げられた。 したがって蓉可は蓬山に住んで長いわけではけっしてない。崇高山での修行を終え、蓬廬宮に移って半月だが、その彼女にも今日の風はなにかしら奇妙に思われた。 常にはゆるやかに小道を流れていく風が、今日に限って強く速い。奇岩の上空へ吹き上げ、かと思えば奇岩にそって吹き下ろして、いたるところで|渦《うず》を巻いている。空模様もなにかしらすっきりしなかった。薄曇りにもかかわらず、重苦しいものが|垂《た》れこめているような、そんなふうに感じられてならない。「なにかの予兆でしょうか」 蓉可の問いに、禎衛は首をかしげた。「さてね。今朝の|八卦《はっけ》には、なにかが起こりそうな|卦《け》は出ていなかったけれど。──とにかく、水を|汲《く》んでおしまい。「はい」 蓉可は持ってきた|手桶《ておけ》を泉に沈めた。 泉の名前は|海桐泉《かいどうせん》という。奇岩の根元をえぐるようにして|湧《わ》いた泉の、その上にさしかかるように張り出した岩棚の上には|海桐花《とべら》の木が群生していた。 蓬廬宮にある泉は、もちろんこれひとつではない。いくつの泉があるのか数えてみた|酔狂《すいきょう》な者はいないが、名前が必要なほどの数であるのは確かである。 蓬山には季節がない。花は年中咲いて散った。いまも海桐花が小さな白い花を落として、泉の水面に|泡《あわ》のように|浮《う》かんでいる。水には海桐花の芳香がうつって、海桐泉の水を汲みあげつづけた桶からは、いつしか海桐花の|匂《にお》いがするほどだった。 海桐花の匂いのする水は、蓬廬宮の中にある|大真廟《たいしんびょう》で蓬山の守り神である王夫人の木像をふき清めるのに使われる。 海桐花の花をよけながら水を汲みあげ、大真廟に向かおうと足を|踏《ふ》みだした蓉可を、禎衛は笑って呼び止めた。「どこへお行きだね」「え? ──夫人の……」 禎衛は声をあげて笑う。「|廟《びょう》はそちらにありはしないよ。まだ道を覚えておいででないかえ?」 蓉可は三方に枝分かれした小道を見比べて、少し赤くなった。「……そのようですね」 蓬山は奇岩と無数に枝分かれした小道とで迷路のようだが、じっさいのところ迷宮にほかならなかった。 正しい道を知っているのは蓬廬宮に住む者だけだった。ここに住まう|女仙《にょせん》だけが無数に枝分かれした道の中から正しい道を選び取り、洗濯によい小川へ、水浴によい|淵《ふち》へ、|水汲《みずく》みによい泉へと行くことができた。あるいはまた、小さいながら日当たりのよい野原へ、花園へ、菜園へ。あるいは、点在する小さな宮へたどりつくことができる。──ただし、蓉可のように蓬山に来て間がない女仙ともなれば、話は別である。「どうしてこんな、ややこしい……」 蓉可が|溜《た》め|息《いき》まじりにひとりごちたので、禎衛は笑った。「|蓬山公《ほうざんこう》をお|護《まも》りするためだもの。多少の不便はがまんおし」 迷路は侵入者に対する備えだった。 奇岩の上をとうてい人馬が進むことはできない。|妖獣《ようじゅう》ならばそれも可能だろうが、蓬廬宮にはいくつかの例外をのぞき、妖獣が立ち入ることは許されなかった。そうして、奇岩の間をぬう小道は細い。蓬廬宮をたずねる者は乗騎を捨て、必ず歩いて入らなければならなかった。 一歩中へ入れば、道はまぎれもなく迷路である。 高い奇岩は視野を|遮《さえぎ》る。しっとりと水を含んだ|苔《こけ》におおわれた奇岩の、その間を通る小道には石畳が敷かれてはいるものの、無数の枝道と無数の|隧道《すいどう》であっというまに方角を見失うことは疑いがない。 蓬廬宮を熟知するものだけが道を見失わずに、この世にただひとつしかない木の|生《は》える高台へと、たどりつくことができるのだ。「ああ、やっぱりそうなんですね」 迷路の奥に隠されたのは|捨身木《しゃしんぼく》、捨身木に実るのは|麒麟《きりん》だった。 この世では人も|獣《けもの》もそのほかのものも、ことごとくが白い木に実るが、麒麟が実る木はここ蓬山にある捨身木が唯一だった。 蓬山は|麒麟《きりん》の生まれる聖地、蓬廬宮は麒麟のために存在し、そこに住まう|女仙《にょせん》もまた麒麟のために存在する。麒麟は蓬山の|主《あるじ》である。ゆえに蓬山公と呼んだ。 禎衛はうなずく。「麒麟をあずかる責任は重い。けれどこれほど幸せな仕事もない。|泰果《たいか》が|孵《かえ》ったら蓉可にもお世話を手伝ってもらう。ようく心しておおきね」 禎衛の言葉に蓉可は|瞳《ひとみ》を輝かせた。「わたしがおてつだいできるんですか? 本当に?」 実のところ、蓉可は少し不満だったのだ。 蓬山の女仙の務めは麒麟に|仕《つか》えることで、それ以外の仕事は雑用に過ぎない。蓬山にはいま若い麒麟がいるが、蓉可はあまりに新参なのでその麒麟にかかわることを許されなかった。 禎衛は笑う。「まず、道を覚えなくてはね」「はい」 蓉可は大きくうなずいた。 捨身木にはつい先日、麒麟の実がひとつ、ついた。泰果と呼ばれる果実である。 蓉可は、いまはまだ小さな果実に思いをはせる。 泰果が熟して麒麟が孵るまでに|十月《とつき》。生まれたばかりの麒麟はどんなに愛らしいだろう。小さな麒麟のそば近くに仕えてその世話をする、それは想像しただけで楽しくてたまらないことのように思われた。 またどこからか|罌粟《けし》の花びらが飛んできて、泉の水面に舞い落ちた。

#4 作者:星矢 2004-11-22 10:18:00)


「|罌粟《けし》かえ」 突然声をかけられて、|禎衛《ていえい》は花びらをすくう手を止めた。背後を振りかえると、|海桐泉《かいどうせん》に近いことから|海桐宮《かいどうぐう》と呼ばれる建物からひとりの女が出てきたところだった。 |蓉可《ようか》は女を見やって首をかしげる。見覚えのない顔だったからだ。|歳《とし》の頃はわからない。若いようでもあり、すでに中年を越えているようでもあった。着ているものも身につけている装身具も、|女仙《にょせん》がつけるそれとは格段に違う。身分の高い女なのだとは想像がついたのだが。「──|玄君《げんくん》」 禎衛があわててその場に平伏し、蓉可もぎょっとしてそれに続いた。 現れたのは|蓬廬宮《ほうろぐう》に住まう|女仙《にょせん》の|長《おさ》、|天仙《てんせん》|玉女碧霞玄君《ぎょくじょへきかげんくん》──|玉葉《ぎょくよう》だったのだ。「|罌粟苑《けしえん》の花が風に乗ってきたのでございましょう」 禎衛が述べると、玉葉は|玲瓏《れいろう》とした面を奇岩のあいまの空へ向けた。「妙な風の吹くことよの」「はい」 玉葉は少しの間、|柳眉《りゅうび》をひそめるようにして空を見上げていたが、すぐに視線をおろして蓉可のほうへ向けた。「蓉可といったか。──|蓬山《ほうざん》にはもう|慣《な》れたかえ」 蓉可は声をかけられて|狼狽《ろうばい》した。 まだ下界にいた頃、玉葉は伝説の中にしか住まないものだと思っていた。それほど|隔《へだ》たりのある女神なのだ。文字どおり雲の上の人に会って声までかけてもらっては、うろたえずにいることなどできない。「は……はい」「まだ道に迷うようですが」 禎衛が笑いぶくみに言ったので、蓉可は真っ赤になった。 玉葉は耳に快い声をあげて笑う。「それは新参者のさだめよの。かく申す禎衛も、昔にはさんざん迷うておったほどに。じきに慣れよう」 ちらりと蓉可が禎衛に視線を向けると、禎衛は|屈託《くったく》なく笑っている。「ほんに。──|妾《わたくし》よりは、よほどものおぼえはよいようでございます。労苦をいとわず、よう働いてくれますし」 玉葉は|笑《え》んだ。「それは、感心なこと」 蓉可はさらに赤くなってしまった。「と、とんでもございません。まだまだ|叱《しか》られることばかりで──」「慣れるまでは、叱られるのも務めのうち。気落ちせずにな」「──はい」 深々と頭を下げて額を地につけた蓉可を見やって玉葉は|微笑《わら》う。同じく|微笑《ほほえ》んで若い女仙を見ている禎衛に視線を向けた。「ときに、|戴《たい》の|女怪《にょかい》が|孵《かえ》ったとか」「さようでございます」 玉葉は常には蓬廬宮にはいない。ふいにどこからともなく現れる。いつもはどこにいて、どこからどうやって現れるのか、禎衛は知らなかった。|不思議《ふしぎ》に思わないでもないが、|一介《いっかい》の|女仙《にょせん》が|詮索《せんさく》してよいことではない。「名は?」「|汕子《さんし》、と」「その、汕子はどこじゃ?」「|捨身木《しゃしんぼく》の下に。いっかなはなれようといたしません」 禎衛が言うと、玉葉はふっくりした|紅唇《こうしん》で笑った。「いつものことながら、|女怪《にょかい》とは情の深いものよの」 禎衛もまた笑んでうなずく。 |麒麟《きりん》には親がない。親の代わりを務めるのが女怪で、これは捨身木の根に実る。麒麟の実が枝につくと一夜で|孵《かえ》って、これから|十月《とつき》、麒麟が孵るまで枝の下で熟していく果実を見守りつづけるのだ。「して、どちらと?」 女怪だけがこれから生まれる麒麟の性別を知っていた。「|泰麒《たいき》だそうでございます」「そうか」 |牡《おす》は|麒《き》、|牝《めす》は|麟《りん》、|国氏《こくし》を冠して号となすのが古来からの決まりである。現在、捨身木に実っているのは|戴国《たいこく》の麒、国氏は「泰」ゆえに「泰麒」と呼ばれる。 玉葉はひとつうなずいて、捨身木に至る道へ足を|踏《ふ》みだした。禎衛と蓉可がそれを見送って深く頭を下げたときだった。 突然、大気が|震撼《しんかん》した。 逆巻く勢いで突風が小道を|駆《か》け抜けた。 声をあげるいとまもなく、禎衛はその場になぎ倒される。同じように倒れた蓉可が悲鳴を上げた。 地が鳴動する。地鳴りは奇岩にこだまして、迷宮が不気味な|咆哮《ほうこう》をあげた。「なにが……」 蓉可の|狼狽《ろうばい》しきった声に、禎衛は答えることができなかった。 単なる嵐とも地震とも思えない。単にそれだけのことならば、必ず|八卦《はっけ》に予言があったはずである。だいいち、単なる天変地異なら、天神女神の力によって幾重にも守護されたこの蓬山に起こるはずがない。「玄君、宮の中へ」 とにかく|長《おさ》の安全をはからねばと、禎衛が石畳に爪を立ててなんとか顔を起こすと、玉葉は天を|仰《あお》いで立ちつくしていた。 いつのまにか空が赤い。薄い赤い|紗《しゃ》を幾重にもおろしたようにして、|赤気《せっき》がゆらめき空をおおっていた。「|蝕《しょく》か……!」 玉葉は鳴動を続ける大地にはかまわず、空で踊る極光を見すえる。 あの突風に倒されずにすんだのは、さすがは女神と言うべきか。それでも禎衛には、それに感嘆する余裕などありはしなかった。「蝕──」 大気がねじれ、のたうつように震えるのがわかる。そのたびに頭上で赤気が|不穏《ふおん》な|蠢《うごめ》きをくりかえした。 赤気のはざまに薄く、|蜃気楼《しんきろう》のようになにかの影が見えた。 それは海の|彼方《かなた》に細く広がる大地の幻影である。「そんな──」 この世ならざる土地が、接近しようとしている。 細かく可憐な|海桐花《とべら》の花が、突風に散って|飛礫《つぶて》のように禎衛を打った。「ああ──|泰果《たいか》があるのに……!」

                                          続き...

#5 作者:星矢 2004-11-23 13:06:00)


 白い枝の下に身を伏せ、|湿《しめ》った|苔《こけ》が肌をくすぐるのを感じながら、うっとりと|汕子《さんし》は枝の果実に見入っていた。 |泰麒《たいき》の入った実は|十月《とつき》で熟す。 十月のあとには、あの|泰果《たいか》から汕子の主である|麒麟《きりん》が|孵《かえ》るのだ。熟した実をもぐその瞬間を思うと、汕子の|身体《からだ》は涙の温度をしたものでいっぱいになる。 |嬉《うれ》しく、|誇《ほこ》らしく、あふれるような思いで|光沢《こうたく》のある金の実を見上げていたときに、突然それは襲ってきた。 汕子には最初、なにが起こったのかわからなかった。 大気がねじれる。さかまいて|壊《こわ》れる。幕を引いたように赤気が空で踊り始めた。身震いするほどの恐怖を感じて、ようやく「|蝕《しょく》」という言葉を脳裏に探し当てた。 とっさに立ち上がった汕子の足を突風がすくう。風にはけっしてそよがぬはずの白い枝が、音をたてて揺れた。 悲鳴を上げて汕子は枝にすがった。枝をつかみ、風に逆らって身を起こすと、吹き散らされて枝にからめとられた髪がむしられていく。そんな痛みに気をとられる余裕はない。守らなければ、と切迫した思いで見上げた視線の先で空気がよじれる。「……泰麒!」 吹き寄せた音が|身体《からだ》を|叩《たた》いた。ねじれてひずんだ大気がさらに|歪《ゆが》み、歪みが枝を|呑《の》みこむのが見えた。「やめて……!」 金の小さな実がひずみに呑みこまれる。|十月《とつき》さき、汕子が|己《おのれ》の手でもぐまでは、けっして枝を離れるはずのない実が、枝からねじ切られていくのが見えた。「誰か!」 枝に|掻《か》き切られて血だらけになった|腕《うで》が実を追う。指先と金の実の間の距離は絶望的なまでに遠かった。「誰か、止めて──!」 汕子の叫びは、全霊を託して伸ばされた指の先で断ち切られた。 金の実はその姿を歪みの中に沈めて消えた。 この世に生まれ、泰麒と呼んだ、そのほかに発した初めての声は悲鳴だった。|虚《むな》しいばかりの叫びだったのである。 始まったときと同じく、唐突にそれは終わった。 汕子は|呆然《ぼうぜん》と白い枝を見上げた。 そこにはもう金の光は見えなかった。たったひとつあった果実は、消えうせていた。「汕子……!」 声が四方から響いて、多くの|女仙《にょせん》が|駆《か》けてくるのが見えた。まっさきに汕子のそばにたどりついたのは|玉葉《ぎょくよう》だった。「ああ……汕子……」 汕子は差し出された彼女のたおやかな手にすがりついた。 最初に名を。次いで、悲鳴と叫びを。その次に汕子の|喉《のど》が発したのは号泣だった。「なんということ」 玉葉は|孵《かえ》ったばかりの|女怪《にょかい》を抱きしめる。無残に散った髪をなで、傷だらけになった|身体《からだ》をなでた。「よりによって、|麒麟《きりん》が実ったときに」 腕の中の女怪は絶叫している。ともすれば|十月《とつき》のほとんどを木の下ですごすほど、女怪の麒麟に対する思いは深い。それを目の前で失った痛みは、玉葉の想像に余った。「大事はない」 女怪の背を|叩《たた》いた。「そのように泣くでない、汕子。……必ず泰麒は探し出してみしょう」 つぶやきながら、|己《おのれ》に言い聞かせる。「できるだけ|早《はよ》うに、そなたの手に泰麒を戻してやろうほどに」「|玄君《げんくん》……」 声をかけてきた|禎衛《ていえい》にうなずく。「諸国に|朱雀《すざく》を飛ばし、至急に|蝕《しょく》の方角を調べさせよ」「かしこまりまして」「月の出までに、ぞえ。女仙を集めて門を開く用意をさせよ」「はい。ただいま」 女仙が方々に散っていく。玉葉は|虚《むな》しく視線を上げた。 何度見わたしても、白い枝に金の果実は|見出《みいだ》せなかった。

 蝕は|黄海《こうかい》の西に起こって、東の方角へ駆け抜けていったとわかった。 |不可思議《ふかしぎ》な力に守られた|五山《ござん》の、さらに守護のあつい|蓬廬宮《ほうろぐう》の花は一花も残さずに散った。|蝕《しょく》が通過した諸国からは|甚大《じんだい》な被害が報告されたが、蓬山の|女仙《にょせん》にとってはそれは心を動かされることではない。彼女たちにとって、重要なことは|麒麟《きりん》のことでしかありえないのだった。 ──問題は、蝕の|歪《ゆが》みの中に|呑《の》みこまれた果実が、どこへ行ってしまったのかということだった。 蝕はこの世と、この世ならざる世界をつなぐ。この世の外を|蓬莱《ほうらい》といい、|崑崙《こんろん》といった。一方は世界の果てに、もう一方は世界の影に位置すると伝えられる。 その真偽はともかく、それは人には行くことものぞき見ることもできない異境である。蝕と、月の呪力を使って開く|呉剛《ごごう》の門だけがそのふたつの世界をつなぐことができた。 世界は|虚海《きょかい》と呼ばれる海にとりまかれている。東へ抜けた蝕なら、|泰果《たいか》は虚海を渡って世界の果て──蓬莱に流れていったのだろう。 人には渡れぬ世界だが、女仙は単なる人ではない。玉葉の指示のもと、多くの女仙が虚海に開いた門を越えて泰果を探しにいったが、泰果の|行方《ゆくえ》は|杳《よう》として知れなかった。 ──麒麟は、失われてしまったのだ。

 その日から長く、蓬山の東、虚海の東をさまよう汕子の姿が目撃された。

#6 作者:星矢 2004-11-23 13:06:00)


二章

   1

 |蓉可《ようか》は|珍珠花《ゆきやなぎ》の|隧道《すいどう》を抜けたところで、|汕子《さんし》に出会った。 隧道を抜けたところにある小さな丸い広場は、柔らかな緑の草におおわれている。周囲の奇岩の斜面には、しがみつくようにして珍珠花が|生《は》えていた。ちょうど隧道の上に生えた一株は、白い花の枝を|簾《すだれ》のように丸い出口にさしかけている。 その花の簾をそっとかき分けたところで、蓉可は斜面を下ってくる汕子を見つけたのだ。 蓉可は|海桐泉《かいどうせん》の水が入った|桶《おけ》を足元に置く。 人馬には通えぬ奇岩の上を、|女怪《にょかい》は軽々と|駆《か》けていく。斜面の上から汕子が下りてくることに|不思議《ふしぎ》はないが、|肝心《かんじん》の汕子の姿を見るのが久方ぶりだった。「──汕子、お帰り」 |女怪《にょかい》は迷路を越えて東の方角へさまよい出る。|一旦《いったん》出ると、長いときにはひと月ほども帰ってこないのが常だった。 なにが目的の旅なのかは、|蓬廬宮《ほうろぐう》の|女仙《にょせん》のすべてが知っている。|倦《う》むほどさまよってから、女怪は疲れはてた顔で帰ってくるのだった。「ちょうどいい。水を|汲《く》んできたところ、そこにお座りなさいな」 蓉可が言うと、汕子はおとなしく|豹《ひょう》の|脚《あし》を折って、|珍珠花《ゆきやなぎ》の下に真っ白な|身体《からだ》を休めた。「今度は長かったね。|黄海《こうかい》の果てまで行っていた?」 できることなら黄海をとりまく|金剛山《こんごうさん》も越えて、さらに東へ行きたいだろうが、どんな生き物も金剛山を越えることはできない。いかなるしくみでか、そのように定められていた。「ほら、おあがり」 |桶《おけ》を口もとにあてがってやると、汕子はおとなしく|縁《ふち》に口をつけた。 ひとしきり飲むと顔を上げたので、桶をおろして|袖《そで》から出した布を水に|浸《ひた》した。軽くしぼって、脚にあててやる。支えた手にもその脚が熱をもっているのがわかった。「ああ、こんなに|腫《は》らして」 布で爪先をくるむようにしてやると、汕子は真円の目を閉じる。首を珍珠花の茂みに軽くもたせかけるようにして、その重みで雪のように花が散った。 ここにあった珍珠花はかつて一度根こそぎ折れた。ただの一本でさえ残らなかった。 ──もう十年も前の話である。「気持ちいい? あまり遠出をしないのよ」 汕子は答えなかったが、それはいつものことなので蓉可も気にとめなかった。 大きな|蝕《しょく》があった。さすがに|五山《ござん》では地形が変わることはなかったものの、五山の外では地勢が一変した。──そうして白い木の果実はもぎとられた。 女怪は悲鳴をあげ、号泣し、それ以後汕子の声を聞いたものはいない。 蓉可は四本の脚をていねいに冷やしながらぬぐってやった。「まだ痛むでしょう。川へ行って冷やしてらっしゃい」 言って、すっかりぬるくなった水をその場にこぼすと、汕子は立ち上がって歩き出した。 汕子がとぼとぼと歩き出した枝道の方角には川はない。彼女は白い木の根元へ戻るのだ。蓉可にはそれがわかったが、あえて呼び止めたりはしなかった。 蓉可には汕子の気持ちがわかるのだ。 |麒麟《きりん》の木に小さな実がついて、それが|孵《かえ》ったら世話を手伝わせてやろうと言われた。 下界では人が|麒麟《きりん》に会うことはめったにない。|昇仙《しょうせん》して|蓬山《ほうざん》に召し上げられて、初めて蓉可に与えられる責任のある仕事になるはずだったし、生まれて初めて間近に見る麒麟になるはずだった。 その果実は流されて、麒麟のために用意された蓉可の両手は宙に浮いた。汕子が養う相手を失って乳房を──人の形をした上体の胸には少女のように|微《かす》かなふくらみしかない。それは|豹《ひょう》の形をした|下肢《かし》のほうにあった──|腫《は》らしていたように、蓉可の中にもまた、行き場を失って|疼《うず》くものが残された。 果実が流れて十年。どの|女仙《にょせん》も、もう|泰麒《たいき》が帰ってくることはあるまい、と言う。きっとそのうち新しい|泰果《たいか》が|捨身木《しゃしんぼく》に実る。それは失われた麒麟が異界で死んだことを意味するのだと、そう言うのだ。 それでも|諦《あきら》めきれなかった。汕子がいまも東の方角へさまよい出るように、蓉可もまた、泰麒のためになにかをすることをやめられない。無事を祈りつづけ、|細々《こまごま》とした品を用意し、少しでも役に立てるよう麒麟についてできる限りのことを学ぶ。そうせずにはいられないから、汕子の気持ちは痛いほどわかるし、汕子もまた女仙とは深くかかわろうとしないなかで、蓉可にだけは|馴染《なじ》んでくれた。 足をひきずるようにして去った白い背を見送って、蓉可は|桶《おけ》を抱えあげた。 水を|汲《く》みなおそうと|踵《きびす》を返したときだった。|珍珠花《ゆきやなぎ》の|簾《すだれ》が動いて、|隧道《すいどう》から女仙のひとりが顔を出した。「こちらに汕子がこなかったかえ」 蓉可は、たったいま汕子が曲がっていった枝道のほうを見やった。すでに汕子の姿は見えない。「木のほうへ行ったけれど」「大急ぎで追いかけておくれでないか」「あたしは、水を」「|玄君《げんくん》のお召しだ」 蓉可は目を見開いた。「どうやら泰果の|行方《ゆくえ》がわかった」

#7 作者:星矢 2004-11-23 13:07:00)


 2

 |蓉可《ようか》は|汕子《さんし》を追いかけ、|玉葉《ぎょくよう》が待つ|白亀宮《はっききゅう》へ急がせた。 |蓬廬宮《ほうろぐう》の建物は、どれもみな|四阿《あずまや》か、さもなければ|庵《いおり》のようなたたずまいをしている。風なら岩が防いでくれる。もともと気候のよい山、熱さ寒さには縁がない。ただ雨露がしのげればよかった。 蓉可は小道を走り、白い石の|階《きざはし》を五段ばかり上がり、同じく白い石を敷いた宮の床に|踏《ふ》み込んだ。ちょうど|禎衛《ていえい》もまた宮の中に|駆《か》けこんできたところだった。「汕子を連れてまいりました」 蓉可はその広い八角形の床の上に平伏する。|椅子《いす》に座り、背後の手すりにもたれていた玉葉はうなずいた。 蓉可のかたわらに平伏した禎衛が顔を上げる。「おそれながら、|泰果《たいか》が見つかったとか」「|雁《えん》の|麒麟《きりん》がみつけてくりゃった」「では、本当に|泰麒《たいき》がみつかったのでございますか」 それは奇蹟に近いことだ。|蓬山《ほうざん》のどの|女仙《にょせん》もが、もう|諦《あきら》めていた。蓬山の歴史の中では、十年も経って帰ってきた麒麟の例などありはしない。過去、|蓬莱《ほうらい》に流された麒麟がないではないが、どんなに長くともその半分以下で見つかっている。十年という歳月は禎衛を驚かせるに足るほど破格の数字だった。 玉葉はおっとりと|微笑《わら》う。「おそらく。……いったんあちらへ渡って、|胎果《たいか》となれば姿形が変わるが、麒麟には麒麟の気配が見えるという。それで諸国の麒麟に折につけ、|虚海《きょかい》を渡って泰麒を探すようお願いしておいたが、今日、ようやく返答があった」 |蝕《しょく》に流された果実は、異国において女の|胎《はら》にたどりつく。それを|胎果《たいか》と称した。「|延台輔《えんたいほ》からでございますか」 玉葉は|瑠璃《るり》を|削《は》がせて作った扇を口もとにかざして笑う。「延台輔はしばしば虚海を渡っている様子。見つけてくださるなら延台輔であろうと思うたが、やはりそうじゃったの」 麒麟がしばしば遠出をするのは|誉《ほ》められたことではないが、この先つよく|咎《とが》めるわけにもいかないだろう。「蓬莱に麒麟を見つけたという。いまのところ、所在のあきらかでない麒麟は泰麒だけゆえ、泰麒にちがいないであろ」「……はい」 それでは本当に麒麟が帰ってくるのだ。「では、さっそく女仙を集めて──」 言いさした禎衛を玉葉は制した。「よい」「ですが」 玉葉は首を振って、禎衛と蓉可の背後に|呆然《ぼうぜん》と立っている汕子に向き直った。扇を卓の上において、まっすぐ両手を伸ばす。「……汕子。ここへ」 汕子はのろのろと玉葉の間近へ歩いていく。「必ず見つけてみしょうと言うたは、|嘘《うそ》ではなかったろう?」 玉葉は汕子の手を取った。「少しばかり遅うなったが、許してたも」 言って汕子の手を|叩《たたく》く。「|捨身木《しゃしんぼく》の根元に扉がある。行って、今度こそこの手でもいで来や」 汕子の真円の目にみるみる涙が浮かんだが、彼女は泣かなかった。そくざに身をひるがえすとそのまま|駆《か》けていった。 玉葉は|疾走《しっそう》してゆく白い|女怪《にょかい》を目を細めて見守る。白亀宮を飛びだした汕子が小道を曲がるのを見届けてから、禎衛に向かってはれやかに笑った。「やっと蓬山に祭りの季節がきますぞえ」 汕子は走った。生まれてこのかた、ねぐらと定めた木の根元に走ると、太い幹のかたわらにひとりの若い女が立って、その足元を示していた。そこはそこには丸く白い光のさしている場所がある。 すでに|女仙《にょせん》が集まっていた。見守る彼女たちには|一瞥《いちべつ》もくれず、汕子はまっすぐ女のもとにかけよった。 捨身木は崖の上、巨大な一枚岩の上に立っている。ずっしりと|苔《こけ》むした岩の、ちょうど木の根元から一歩ほどの場所に、女は立っていた。 足元には銀の輪が落ちている。近づいてみれば、それは単なる輪ではなく、一匹の|蛇《へび》だった。白銀の|鱗《うろこ》を持ったふたつ尾の蛇が丸くなって、一方の尾をくわえて円を作っていたのだ。 蛇の作った円の中は薄く輝いている。ちょうど丸い光が降り注いでいるようにも、苔の下から光がさしているようにも見えた。 汕子が足を止めると、彼女は|微笑《わら》って優美な右手を差し出した。彼女の左手の指には蛇の一方の尾が巻きついている。「汕子、ですね」 汕子は彼女を見、蛇が作った光の輪をのぞきこむ。両手を広げたほどの輪の、向こうは白い|闇《やみ》だった。淡い光の|隧道《すいどう》が続いた底に、ぽっかりと丸い穴が|空《あ》いていた。穴に切り取られた風景の中に見えるのは、見慣れない様式の建物と、庭らしき空間と、金の丸い光だけだったが、汕子にはそれで充分だった。 ──泰麒。 なにを|誤《あや》っても、あの光が泰麒か否かを誤ったりはしない。「お入りなさい。ただし、私の手をけっして放さないでくださいまし」 そういった女は、汕子の知る顔ではなかったが、いまはどうでもいいことだった。 彼女の手を握り、汕子は光の中に|踏《ふ》みこむ。冷え冷えとした空気が吹きあげてきていた。隧道の出口には|珍珠花《ゆきやなぎ》の花弁が舞い散るようにして、白い冷たい花が吹きこんでいる。 光の中に最後の足までが踏みこむと、ふんわりと浮き上がる気配があって、天地の感覚が消滅した。宙を|漂《ただよ》うようにして隧道の出口へ向かって一歩を踏み出した汕子の背後に、女が続いて下りてくる。「さあ。進めるところまで進んでごらんなさい」 言われ、汕子は歩き始める。出口へ向かって、汕子が進めるぎりぎりの|縁《ふち》まで歩んでから、|腕《うで》を伸ばした。 いまや視界いっぱいにひろがった風景は、白い冷たい花の舞う墨色の空気の中に金の丸い光が浮かんでいる、ただそれだけの光景だった。 光はよく見れば小さな子供の姿をしているようにも思われたが、汕子の目には、それがひとつの果実のように映った。本当なら十年も前に汕子が白い枝からもいだはずの果実。腕に抱えるほどの大きさがあって、つややかな金の色をしている──。 汕子の指はせいいっぱいに伸ばしても、金の果実に届かない。女の手を握る指に力をこめ、上体を伸ばし、手探りをし、冷たい空気をかきわけ果実をさし招くようにすると、果実のほうから汕子の手の届くあたりへ漂ってきた。 ──どれほどこの瞬間を夢見たろう。 汕子は指先に触れたその果実をしっかりとつかまえた。 手元に引きよせると、その実は難なく、汕子の腕の中にもがれて落ちた。

#8 作者:黎琳 2005-4-30 11:47:00)


你是从什么地方找来的?
#9 作者:星矢 2005-4-30 12:21:00)


全部资料来源与日本。

#10 作者:胖子 2005-5-4 5:39:00)


这个找时间补充完整吧.
#11 作者:tachibana112 2005-6-2 21:30:00)


这个还没有出完 补充完整是不可能了............
#12 作者:胡桃夹子 2005-7-29 21:24:00)


非常喜欢这部作品,人物自性格塑造得非常丰满,中文译本也不错。能看到日文真是幸福,楼主加油
#13 作者:huangjeff 2005-8-5 22:18:00)


先回了再看,谢谢楼主,希望补充完整
#14 作者:csuldj 2005-8-11 20:29:00)


这需要较高的日语水平才能够很好的读懂

等到我到了那个地步,我一定会试着去读的!!!

#15 作者:小透 2005-9-14 20:26:00)


TO 星矢:我找到这篇小说了,不建议的话偶帮你补齐。先发一贴,等你回复。 

 彼が白い手の、すぐ間近へ歩いていくと、白い手は迷わずに彼の手首を握った。 冷えた肌に、その手の感触はひどく暖かかった。 倉と|土塀《どべい》の間のせまい|隙間《すきま》にどうやって人が隠れているのか、それを確かめたかったはずなのに、間近までいった瞬間、あたりの風景が定かではなくなった。ちょうど|瞳《ひとみ》を水の膜がおおいでもしたように、風景が|潤《うる》んでにじみ、ものの|輪郭《りんかく》が消え失せた。 思わず手探りをするように伸ばした|腕《うで》の手首をつかまれ、すると急に|身体《からだ》が浮きあがる感触があって、するりとどこかに引き込まれた。 引き込まれた先は白い空間だった。色のないもやのようなものが濃くたちこめていて、どんな場所だか判然としなかったが、彼はなんとなくそこをふわふわした球形の場所のように感じた。 そこはいっそう暖かく、さらに暖かい風がどこからか流れてきていた。 足元には|硬《かた》い|床《ゆか》の感触がなかった。かといって柔らかなものを|踏《ふ》んで足をとられる感じもしない。雲の上に立つとこんな感じがするかしら、と彼は思う。 すぐ近くに人の気配がして誰かがしっかりと彼の手を捕らえていたが、その姿は見えなかった。もやの中にちらちらと乳白色の影が動いているようにも思えたけれど、気のせいだったかもしれなかった。 少しの間ぽかんとしていると、彼の手首を握った手が彼を引いた。|不思議《ふしぎ》に|怖《こわ》い感じはしなかったので、おとなしく手を引かれるにまかせる。 ごく短い|廊下《ろうか》を歩くほどの間、ふわふわと引かれて、やがて水面に顔を出すようにして、ぽかりともやの外に出た。 突然陽光にさらされて、彼はしばらくきょとんとしていた。 目の前にあったのは、見たこともない木の真っ白な幹だった。それはまるで純白の金属でできたように見えた。幹は太く、それでもさほどに高くなく、やはり白い枝は大きく横に伸びて、先端で|垂《た》れるようにしなっている。 その枝の向こうには奇妙な風景が見えた。緑色をした変わった形の岩が連なる様子。遠巻きに集まった、見慣れない格好の女たち。 そうして、なかでもいちばん奇妙だったのは、彼の手を握った女の姿だった。 女は半分が人で、半分が|虎《とら》か豹《ひょう》のように見えた。顔は妙にのっぺりとして、そこに真円の目が表現のしようのない色をたたえて開いている。|怯《おび》えてもいいはずだが、|不思議《ふしぎ》に|怖《こわ》いとは思わなかった。それよりむしろ、優しい目だとそう思った。「……タイキ」「半獣の女はそういったが、それがなにを意味する言葉なのか、彼にはよくわからなかったし、ましてやそれが彼女が十年ぶりに発した言葉であることなど、わかるはずがなかった。「|泰麒《たいき》」 彼女の柔らかな手が髪をなでて、同時に丸い目から澄んだ涙がこぼれた。 彼はなんとなく、いつも母親にするように手を握ってその顔をのぞきこんだ。「かなしいことがあったの?」 彼が言うと、彼女は首を横に振った。いいえ、と否定するよりは、気にしなくていいのよ、と言いたげなその仕草が母親のそれによく似ていた。「……泰麒? その子が?」 声が聞こえて、彼はようやく木の周囲で奇妙なざわめきが起こっていることに気がついた。どうしたのだろう、と思っていると、ひとりの女が近づいてくる。「……珍しいこと」「だれ?」 女は彼の前に|膝《ひざ》をついた。「わたしは|玉葉《ぎょくよう》と申す。……こんな髪を見たのは何百年ぶりかの」 女は彼の髪を|梳《す》いた。「|黒麒《こっき》だ。ほんに、珍しいこと」「なにか、おかしい?」 彼は目の前の女にではなく、かたわらに立って彼の手を握っている半人半獣の女のほうを見上げた。すでに彼の中で、こちらの女のほうが自分のたよるべき存在なのだと、そうなんとなく理解されていた。 彼女はもう一度、無言で首を横に振った。「もちろん、おかしくはないとも。めでたいことじゃ」 目の前の女は言う。「あちらで生まれたのなら名前があろうが、ここでは泰麒とお呼びする」「泰麒? どうしてですか」「それが決まりだから、かの」「ここは、どこなんですか? ぼくは庭にいたはずなんですけど」 彼は、異常なことが起こったのだと理解できないほどに小さくなかったが、それによってひどく動揺するほどには大きくなかった。「ここは蓬山。泰麒のあるべき場所」「よく……わかりません」「いずれおわかりになろう。──これは、|汕子《さんし》。|白《はく》汕子という。あなたのお世話を申しあげる」 彼はかたわらの女を見上げた。「汕子……」 さらに玉葉は、視線を脇へ向けた。「そちらは、|廉台輔《れんたいほ》」 白い木の幹のそばに、金の髪の女が立っていた。彼が玉葉の視線を追って彼女のほうを見たとき、ちょうど白い|蛇《へび》がするすると|腕《うで》に巻きついて、銀の腕輪に変じたところだった。蛇にはふたつめの尾があって、それが腕輪に銀の|鎖《くさり》でつながった指輪に変じたようにも見えたが、驚いていたので確かなこととはいえない。「お礼を申されよ。泰麒のお|迎《むか》えに汕子をつかわすため、貴重な宝をお貸しくだされたのだから」 彼はやんわりと|微笑《ほほえ》む女を見上げ、さらに汕子に目をやった。汕子がうなずいたので、いわれるままに頭を下げた。「ありがとうございました」 彼女はただ|微笑《わら》う。それを満足そうに見やって唐突に玉葉が立ちあがった。|踵《きびす》を返し、去っていこうとする。「あの、玉葉……さん」「泰麒。さま、と」 彼は汕子を見上げた。「……さま、とお呼びするのです」 彼はうなずいた。汕子の言葉は|不思議《ふしぎ》に|戸惑《とまど》いを生まなかった。泰麒、と耳なれない言葉で呼ばれても、汕子の口から出ると、自分の呼び名だとあっさり|納得《なっとく》できた。「玉葉さま。・・・・・いろんなことがとても不思議な気がするんですけど」 彼には自分の困惑を、うまく表現することができなかった。 玉葉はただ笑った。「じきに慣れようほどに、おいおい汕子に聞かれるがよかろう」 彼は汕子を見上げた。汕子は微笑んだ。──表情のとぼしい顔だから、さだかではないが、たしかに微笑んだのだと感じた。「はい」 彼が汕子の手を強く握ると、それ以上に強い力で答えがあった。

#16 作者:星矢 2005-9-18 19:52:00)


好的,那你补齐吧,谢谢了
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