「AがBにあげる」は、A→Bと物が移動することを表し、「AがBにもらう」は、B→Aと物が移動することを表します。そして、「Aが(私に)くれる」は、A→私、と物が移動することを表し、「あげる」と「もらう」は主語を文の中心にする性質があることを前回、説明しました。 今回は、「~てあげる」「~てもらう」「~てくれる」という表現を考えてみましょう。「動詞テ形(連用形)+あげる/もらう/くれる」という表現です。この表現は、会話の中で非常によく使われます。主語「Aさん」と動詞「読む」の関係に注意しながら、下の例文を見てみましょう。
例1:Aさんが本を読む。 例2:AさんがBさんに本を読んであげる。 例3:AさんがBさんに本を読んでもらう。 例4:Aさんが(私に)本を読んでくれる。
例1は、主語「Aさん」が「読む」という動作をしていることを表現しています。例2も、例1と同じように、「Aさん」が「読む」という動作をしています。しかし、Aさんは、自分のために読むのではなく、Bさんのために読んでいます。また、例4も、「読む」という動作をするのはAさんです。ただし、「私」のために「読む」という動作をしています。ところが、例3では、本を「読む」のは、主語のAさんではなくBさんです。「Bさん」が、Aさんのために、本を読んでいるのです。 「あげる」「もらう」を物の移動に使う時、物の移動は、「あげる」の場合「A→B」で、「もらう」の場合は「A←B」と反対になりました。それと同じように、「~てあげる」と「~てもらう」では、動作をする人が入れ替わります。つまり、「~てあげる」は、「主語A(動作主)→B(受け手)」、「~てもらう」は、「主語A(受け手)←B(動作主)」となるのです。つまり、「~てもらう」は、主語が動作をするのではなく、「ほかの人が主語のために動作をする」という表現です。そのため、生徒にとって、この「~てもらう」という表現は、理解するのも使いこなすのも難しいのです。
「~てもらう」の動作主 次の文を見て、誰が動作をするのかを考えてみてください。
例5:田中さんが先生に中国語を教えてもらう。 例6:劉さんが先生に本を貸してもらう。 例7:楊さんが先生にスピーチをしてもらう。 例8:金さんが先生に餃子を食べてもらう。 分かりましたか。動作をするのは、すべて「先生」です。 例5は、先生が(主語=田中さんのために)教えます。田中さんは習う人です。例6は、先生が(主語=劉さんのために)本を貸します。劉さんは借りる人です。例7は、先生がスピーチをします。それは、楊さんが「先生、私たちのためにスピーチをしてください」と頼んだから、先生が(主語=楊さんのために)スピーチをするのです。例8は、先生が餃子を食べます。それは、金さんが「先生、餃子をどうぞ」と勧めたから、先生が(金さんの好意に応えるために)食べるのです。 「AさんがBさんに~てもらう」という文は、「Aさんが何かをするのではなく、AさんがBさんに頼んで、AさんのためにBさんが何かをする」という意味になります。「~てもらう」を、「AがBに~てあげる」「Aが(私に)~てくれる」という文と比べて、動作をする人がどのように入れ替わっているか、生徒によく説明してください。
本田弘之 杏林大学助教授
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