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阿Q正伝(鲁迅作品日文版)

作者:未知 文章来源:青空文库 点击数 更新时间:2006-8-12 8:00:32 文章录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语



        第八章 革命を許さず

 未荘の人心は日々に安静になり、噂に拠れば革命党は城内に入ったが、何も格別変ったことがない。知県ちけん様はやっぱり元の位置にいて何か名目が変っただけだ。挙人老爺は何になったか――これ等の名目は未荘の人には皆わからなかった。――お上が兵隊を連れて来ることは、これも前からいつもあることで、格別不思議なことでもないが、ただ一つ恐ろしいのは、ほかに幾らか不良分子がまじっていて内部の擾乱じょうらんを計っていることだ。そうして二言目には手を動かして辮子をった。聴けば隣村の通い船を出す七斤は途中で引掴まって、人間らしくないような体裁にされてしまったが、それさえ大した恐怖の数に入らない。未荘の人は本来城内にくことは少いのに、たまたまく用事があっても差控えてしまうから、この危険にぶつかる者も少い。阿Qも城内に行って友達に逢いたいと思っていたが、この話を聞くとやめなければならない。
 だが未荘の人も改革なしでは済まされなかった。幾日の後、辮子を頭に巻込む者が逐漸ちくぜん増加した。手ッ取り早く言うと一番最初が茂才公もさいこうだ。その次が趙司晨と趙白眼だ。後では阿Qだ。これがもし夏ならば、辮子を頭の上に巻込み、あるいは一つのかたまりにするのはもとより何も珍らしい事ではないが、今は秋の暮で、この特別の歳時記が行われたのは、辮子を巻込んだ連中に取っては非常な英断と言わなければならない。未荘としてはこれもまた改革の一つでないということは出来ない。
 趙司晨は頭の後ろを空坊主にして歩いた。これを見た人は大きな声を出して言った。
「ほう、革命党が来たぞ」
 阿Qは非常に羨しく思った。彼はとうから秀才が辮子をわがねたというニウスを聞いていたが、自分がその様な事をしていいかという事について少しも思い及ばなかった。現在趙司晨がこうなってみると、急に真似てみたくなって実行の決心をきめた。彼は一本の竹箸に辮子を頭の上にわがね、しばらくためらっていたが、思切って外へ出た。
 彼が往来に出ると、人は皆彼を見るには見るが何にも言わない。阿Qは初め不快に感じてあとになるとだんだん不平が高じて来た。彼は近頃怒りッぽくなった。実際彼の生活は謀叛前よりはよほど増しだ。人は彼を見ると遠慮して、どこの店でも現金は要らないという、だが阿Qは結局少からざる失望を感じた。もう革命を済ましたのに、こんなわけはないはずだ。そうして一度小Dを見るといよいよ彼の肚の皮が爆発した。
 小Dもまた頭の上に辮子をわがねた。しかもかつあきらかに一本の竹箸を挿していた。阿Qはこんなことを彼が仕出かそうとは全く思いも依らぬことだった。自分としてもまた彼がこのような事するのは決して許されない。小Dは何者だろう? 阿Qはすぐにも小Dに引掴んで、彼の竹箸を捻じ折り、彼の辮子をほかして、うんと横面を引ッぱたいて、彼が生年月日時の八字を忘れ、図々しくも革命党に入って来た罪を懲らしめてやりたくなって溜らなくなったが、結局それも大目に見て、ベッと唾を吐き出し、ただ睨みつけていた。
 この幾日の間、城内に入ったのは偽毛唐一人だけであった。趙秀才は箱を預ったことから、自身挙人老爺を訪問したくは思っていたが、辮子を剪られる危険があるので中止した。彼は一封の「黄傘格こうさんかく」の手紙(柿渋引かきしぶびき方罫紙ほうまいし?)を書いて、偽毛唐に託して城内に届けてもらい、自分を自由党に紹介してくれと頼んだ。偽毛唐が帰って来た時には、秀才は四元の銀を払って胸の上に銀のメダルを掛けた。未荘の人は皆驚嘆した。これこそ柿油党すーゆーたん(自由と同音、柿渋かきしぶは防水のため雨傘に引く、前の黄傘格に対す)の徽章きしょう翰林かんりんを抑えつけたんだと思っていた。趙太爺はにわかに肩身が広くなり倅が秀才にあたった時にも増して目障りの者が無い。阿Qを見ても知らん顔をしている。
 阿Qは不平の真最中に時々零落を感じた。銀メダルの話を聴くと彼はすぐに零落の真因を悟った。革命党になるのには、投降すればいいと思っていたが、それが出来ない。辮子をわがねればいいと思ったがそれも駄目だ。第一、革命党に知合がなければいけないのだが、彼の知っている革命党はたった二つしか無かった。その一つは城内でバサリとやられてしまった。今はただ偽毛唐一人を知っているだけで、その毛唐の処へ、相談にくより外は無かった。
 錢家の大門は開け拡げてあった。阿Qは、おっかなびっくり入って行った。彼は中へ入りかけて非常に驚いたのは、偽毛唐がちょうど広場のまん中に突立って、真黒な洋服を著て、銀メダルを附けて、手にはかつて阿Qを懲らしめたステッキを持って、一尺余りの辮子をひらいて方の上に振り下げ、まるで蓬々髪ほうほうがみ劉海りゅうはい仙人のような恰好で立っていたのだ。向き合って立っていたのは、趙白眼の外三人の閑人で、ちょうど今恭々しくお話を伺っているところだ。
 阿Qはこっそり近寄って趙白眼の後ろに立ち、心の中ではお引立に預かろうと思っているんだが、さて何と言ったらいいものか、言い出す言葉を知らなかった。
 彼を偽毛唐というのはもとより好くないことだ。西洋人も穏かでない。革命党も穏かでない。洋先生やんしいさんといえばあるいはいいかもしれない。
 洋先生は眼を白黒して、ちょうど講義の真最中であったから、阿Qに眼も呉れない。
「乃公はせっかちだから顔を見るとすぐに言った。こう君! われわれは著手ちゃくしゅしよう。しかし彼は結局 Noノー と言った。これは洋語だからお前達には分らない。そうでなければもっと早く成功したんだぞ。とにかく、これは彼が大事を取って仕事をした方面なんだ。彼等は再三再四湖北に行ってくれと乃公に頼んだが、乃公はそれでも承知しないくらいだ。誰がこんな小っぽけな県城の中で事を起そうと願う奴があるもんか……」
「えーと、こーつ」阿Qは彼の話が途切れたひまに精一杯の勇気を振起ふりおこして口をひらいた。だが、どうしたわけか洋先生と、彼を喚ぶことが出来なかった。
 話を聴いていた四人の者は喫驚びっくりして阿Qの方を見た。洋先生もようやく彼に目をとめた。
「何だ」
「わたし……」
「出てけ」
「わたしも……に入りたい」
「生意気いうな。ころがり出ろ」と洋先生は人泣かせ棒を振上げた。
 趙白眼と閑人は口を揃えて怒鳴った。
「先生がころがり出ろと被仰おっしゃるのに、てめえはかねえのか」
 阿Qは頭の上に手をかざして、覚えず知らず門外に逃げ出した。洋先生は追い馳けても来なかった。阿Qは六十歩余りも馳け出してようやく歩みをゆるめ心の中で憂愁を感じた。洋先生が彼に革命を許さないとすると、外に仕様がない。これから決して白鉢巻、白兜の人が彼を迎えに来るというのぞみを起すことが出来ない。彼が持っていた抱負、志向、希望、前途がただ一筆で棒引されてしまった。閑人のおれが行届ゆきとどいて、小D、王※[#「髟/胡」、175-12]などに話の種を呉れたのは、やっぱり今度の事であった。
 彼はこのような所在なさを感じたことは今まで無いように覚えた。彼は自分の辮子をわがねたことに[#「に」は底本では欠落]ついて無意味に感じたらしく、侮蔑をしたくなって復讎のかんがえから、立ちどころに辮子を解きおろそうとしたが、それもまた遂にそのままにしておいた。彼は夜になって遊びに出掛け、二杯の酒を借りて肚の中に飲みおろすと、だんだん元気がついて来て、思想の中に白鉢巻、白兜のカケラが出現した。
 ある日のことであった。彼は常例に依り夜更けまでうろつき廻って、酒屋が戸締をする頃になってようやく土穀祠おいなりさまに帰って来た。
「パン、パン」
 彼はたちまち一種異様な音声をきいたが爆竹では無かった。一たい彼は賑やかな事が好きで、下らぬことに手出しをしたがるたちだから、すぐにやみの中を探ってくと、前の方にいささか足音がするようであった。彼は聴耳ききみみ立てていると、いきなり一人の男が向うから逃げて来た。彼はそれを見るとすぐに跡に跟いて馳け出した。その人が曲ると阿Qも曲った。曲ってしまうとその人は立ちどまった。阿Qもまた立ちどまった。阿Qは後ろを見ると何も無かった。そこで前へ向って人を見ると小Dであった。
「何だ」阿Qは不平を起した。
「趙……趙家がやられた。[#底本では「。」が重複]掠奪……」小Dは息をはずませていた。
 阿Qも胸がドキドキした。小Dはそう言ってしまうと歩き出した。阿Qはいったん逃げ出したものの、結局「その道の仕事をやった」事のある人だから殊の外度胸がすわった。彼は路角みちかどいざり出て、じっと耳を澄まして聴いていると何だかざわざわしているようだ。そこでまたじっと見澄ましていると白鉢巻、白兜の人が大勢いて、次から次へと箱を持出し、器物を持出し、秀才夫人の寧波ニンポウ寝台ねだいをもち出したようでもあったがハッキリしなかった。
 彼はもう少し前へ出ようとしたが両脚が動かなかった。
 そのは月が無かった。未荘は暗黒の中に包まれてはなはだしんとしていた。しんとしていて羲皇ぎこうの頃のような太平であった。阿Qは立っているうちにじれったくなって来たが、向うではやはり前と同じように、往ったり来たりしているらしく、箱を持ち出したり器物を持ち出したり、秀才夫人の寧波ニンポウ寝台を持ち出したり……
 持ち出したと言っても、彼は自分でいささか自分の眼を信じなかった。それでも一歩前へ出ようとはせず、結局自分のおみやの中に帰って来た。
 土穀祠おいなりさまの中は、いっそうまっくらだった。彼は大門をしっかり締めて、手探りで自分の部屋に入り、横になって考えた。こうして気を静めて自分の思想の出どころを考えてみると、白鉢巻、白兜の人は確かにいたが、決して自分を呼び出しには来なかった。いろんないい品物は運び出されたが、自分の分け前はない。これは全く偽毛唐が悪いのだ。彼は乃公に謀叛を許さない。謀叛を許せば、今度乃公の分け前がないことはないじゃないか? 阿Qは思えば思うほど、イライラして来てこらえ切れず、おもうさま怨んで毒々しく罵った。
「乃公には謀叛を許さないで、自分だけが謀叛するんだな。馬鹿、偽毛唐! よし、てめえが謀叛する。謀叛すれば首が無いぞ。乃公はどうしても訴え出てやる。てめえが県内に引廻されて首の無くなるのを見てやるから覚えていろ。一家一族皆殺しだ。すぱり、すぱり」

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