教師が生徒を教える時、もっとも大切なことは何でしょうか。わたしは生徒に自信を持たせ、学習意欲を高めるようなほめ方や直し方ではないかと思います。特に外国語教育の中で生徒をほめたり、生徒の間違いをうまく直したりすることが必要だと思います。
単語の意味や文型の説明は、教科書や辞書、参考書があれば、生徒が自分で調べることができます。つまり「先生」がいなくても外国語は勉強できます。しかし、このような「自習」では、勉強し続けることが難しいのです。いつもそばに教師がいて、ほめてくれるから、生徒は「もっと勉強しよう」という気持ちになるのです。生徒はほめられることで自信と学習意欲を持ちます。また、ほめられた生徒は緊張感がほぐれ、外国語の学習にもっとも大切な「間違ってもいいから、どんどん話してみよう」という気持ちになります。その結果、生徒の成績を伸ばすこともできるのです。
では、生徒をほめる時には、どのような言い方があるのでしょうか。もっともよく使うのが「よくできました」「よく勉強しましたね」という言葉です。これは口で言うだけではなく、宿題ノートや試験の解答用紙の上に書くこともあります。また、教師の予想よりずっとよいこたえ(質問への返答や作文やロールプレイなど)が返ってきた時には、「すばらしい作文です!」「こんなにうまくできるなんてすごいですね!」という言い方をします。わたしは、半分冗談で「こんなによくできるなら、明日から日本に行っても大丈夫ですよ」「明日からは、わたしの代わりに先生になってください!」などと言うこともあります。教師にこのように言われると、冗談とわかっていても、とてもうれしいものです。
では生徒から間違ったこたえが返ってきた時には、どうしたらいいでしょうか?間違ったところを直す時にも、はじめにいいところをほめましょう。「この言い方はとてもよかったですね」「この部分はとてもよくできています」のように言います。そして、「でも、ここはもう少し考えてください」「この部分は間違っていますから、書き直しましょう」と指摘します。つまり、間違いを直す時にも、「最初にほめてから、注意する」ことが、生徒の学習意欲を高めるのに効果的です。
中国の教師は、生徒をほめる時に「いいです」と言うことが多いようですが、「いいです」は、ほめる言葉とは言えません。 「いいです」にはいろいろな使い方があります。
例1 生徒:先生、窓を開けてもいいですか。
教師:いいです。
例2 田中:週末映画を見に行きませんか。
李:いいですね。
例3 生徒:先生手伝いましょうか。
教師:ありがとう。でも、いいです。
例4 教師:修学旅行先はどこがいいですか。
生徒:北海道がいいです。
例5 田中:この絵をどう思いますか。
李 :いいです。
例1は許可の意味です。
例2は同意の意味です。
例3は「必要ない」という断りの意味です。
例4は「北海道に行きたい」という選択の意味です。
例5は、「絵」に対してプラスの評価をしていますが、「悪くない、普通だ」というニュアンスがあり、ほめる表現にはなりません。また例5の文脈で「いいですね」と「ね」を付けるとプラスの評価が強くなりますが、感激の感情を込めて言わなければ、積極的なほめ方とは言いにくいのです。
本田弘之
杏林大学助教授